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ひとりぼっちじゃない君へ-2

「式が現れたの?」 研究室にて、白衣を羽織った三人の研究員はコーヒー片手に談義中であった。 「私のときはルーシーばっかりよ」 「ルーシーはレズビアンだからな、お前がお気に入りなんだろう」 セラの言葉にリーダーであり兄でもある繭亡が微笑む。 窓際に立ってグラウンドを眺めながら、隹は、ブラックコーヒーを飲んだ。 「誰が超能力の持ち主なのか特定できないな」 「人殺しなんだ、マーガレットは除外できる。彼女はまだ六歳だ」 「六歳……式の両親が死ぬ一年前……」 一番幸せだった頃ね、とセラはやりきれない表情で呟いた。 二十年以上前、彼の母親は浮気をしていた夫の頚動脈を包丁で切り裂き、ガソリンをかぶり、共に火を点けた。 式より一つ下の妹は巻き添えを食らった。 彼の家族はその場で死んだ。 式の目の前で。 「風が強いね……」 「おはよう、グレイ」 大人しいグレイは基本人格の式に似ている。 ただ……。 「風が強いね……本当」 ベッドに座って質問をしていたら、うつ伏せになっていたはずの彼は隹の肩にもたれかかってきた。 十四歳の彼は人肌に依存しがちなようである。 繭亡にもよくやるそうだ。 ルーシーはセラが担当のとき頻繁に現れる。 マーガレットも同様だ。 そのマーガレットが珍しく現れたので隹はまだ幼き少女を散歩に連れて行ってやった。 グラウンドの中央でしゃがみ込むと花を片手にぬいぐるみと話し始める。 たまに鉄条網の傍らを見回る銃を背負った兵士の方にちらっと視線をやると、隹の白衣の影にさっと隠れた。 「あの人達、こわい」 「大丈夫、何も悪いことをしなければ何もしない」 マーガレットを宿した式はにっこり笑う。 式自身の纏う翳り、ネイムレスの険悪な様など、どこにも見当たらない。 彼は確かに精神障害者なのだな、と、こんな時隹は度々思い知らされた。 「もう戻ろうか、マーガレット」 「もう?」 「風が冷たくなってきた」 縫合の跡が目立つぬいぐるみのクマをぎゅっと抱き締めて、マーガレットは、渋る気配を見せたが。 また満面の笑顔で隹を見上げると言った。 「抱っこ!」 隹は正面で横向きにマーガレットを抱き上げて〈鳥篭〉へと戻った。 ガラス張りの通路途中で会った繭亡とセラに微笑されて彼は肩を竦めてみせる。 「途中でぬいぐるみを落とした」 「わかったわ、拾っておく」 そんな遣り取りを交わして彼らと擦れ違い、カードキーで〈鳥篭〉の施錠を解くと、パイプベッドに眠り姫を寝かせてやる。 薄目がちであることに気づいて隹ははっとした。 「あの子……マーガレットが出たんだね」 「式か?」 目を瞑ってしまった式に、隹は、手を伸ばそうとする。 「式……」 次の瞬間。 隹はネイムレスに殴られた。 やはり最も厄介なのはネイムレスだった。 この人格のおかげで上から拘束具をつけろと指示される日々だ。 彼が生まれたのは家族の死から数年後のことだ。 場所は養護施設。 用務員に乱暴されかけて凶暴なネイムレスは式に生まれ落ちた。 用務員は小指を噛み千切られたとのことだ。 「眼鏡をしていないし、この傷はどうしたの、隹?」 次に厄介なのはライアーだった。 「ネイムレスにやられちゃった?」 隹を跨いで膝上にさも親しげに座り込み、恋人面しながら肩に両腕を回してくる。 「あいつは人一倍怖がりだから暴力を振るうんだよ」 「そうか」 「だからあいつを怒らないでやってね」 ライアーはネイムレスとは反対に媚を売り、甘える猫のように擦り寄ってくる。 「だけどごめんね、痛かったでしょう、隹……?」

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