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Sweet dreams-2
何が起こっているのか式には理解できなかった。
突然、眠っていたところをたくさんの腕に乱暴に起こされて、大好きだった彼女を魔女呼ばわりされ、どこにいると大声で問い詰められて。
状況がまるで呑み込めずに凍りついていたら、無残にも、外にいた村の人間に彼女の墓を暴かれた。
どうして、なぜ、こんなことをするの。
「目の色が違う!」
松明の炎に浮かび上がった、驚きで涙も流せずにいる式の双眸に、一人が気づいた。
そしてその場にいた全員の意見が一つにまとまる。
「そうだ、これは、魔女の手先だ」
草花は、畑は、蹴散らされた。
放たれた炎が古い木造小屋をあっという間に覆い尽くす。
家族の腕を掻い潜ってやってきたセラは燃え盛る光景と対峙して絶叫した。
「やめて、だめよ、いやぁぁあ!」
泣き喚くセラを追ってきた母親は我が子を胸に抱き止めてその目元を必死で覆った。
「式、式……!!」
セラの泣き声を式は屋根裏部屋で聞いていた。
縄で後ろ手に縛られて寝台に括りつけられ、身動きできずに、霞む目で煙と火に包まれた部屋を見つめていた。
カーテンが燃え上がる。
屋根の骨組みにまで火の波が打ち寄せる。
思い出の宿る数々のもの達が炎に呑まれていく。
ごめんなさい。
僕、守れなかった。
一人で頑張って生きていこうって、思ったけれど。
生きられなかった。
『お母様の眼差しにそっくりよ』
炎が寝台のすぐそばまで迫る中、式は、彼女の最期の言葉をふと思い出した。
名も顔も知らぬ母。
身重の体で森を単身彷徨い、倒れていたところを、彼女に介抱されて。
数日後に母は式を産んだ。
その日に母は亡くなった……。
「お母さん……」
全身が焦げつくような熱風に意識が朦朧となり、息苦しさに喘ぎながら、式は母のことを思う。
身重でありながら森を抜けようとした一人の女。
この炎と同じ、恐怖する人々により向けられた狂気から逃れるため、女は森の中を行く。
この世界で何よりも愛する二人のために。
「おとう、さ、ん」
式は初めてその唇でその名を呼んだ。
夜を貫いた、猛々しい、嘶き。
闇の降臨をいち早く察した森の獣達は息を潜める。
次いで縦横無尽に張り巡らされた枝葉の狭間に響くは大地を駆ける蹄の音。
疾走するその姿はまるで形なす闇夜の如き漆黒であった。
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