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kill me slowly-2
イ草が香る畳の一間の片隅に放り投げられた鞄。
「あッ……ン……」
半分開かれたままになっている障子戸、その向こうで不規則に揺らめくシルエット。
午後の授業を全てさぼって早退していた隹は夕方前に帰宅した式を捕まえた。
互いに制服もそのままに弟を貪った。
我が身に跨らせ、陶器のように白く滑らかだった頬が紅潮していく様を視界で愉しんだ。
抉じ開けられた蕾孔に真下から激しく出入りするペニス。
奥の奥ばかり小突いてくる。
尻膣が押し拡げられて内部が満遍なく擦り上げられる。
「や、め……っ兄さん……」
「お前、学校楽しい?」
「あッ……あッ、あ……ッ」
「卒業したらどうする? 行きたい大学とかあるのか?」
双丘に五指がきつく食い込んだかと思えば三、四回、勢い任せに激しく突き上げられた。
「ンッッッ」
「そんなもん、ないよな」
「ッッ、ッ、ッ……す、い……壊れる……こんなの……」
「ずっとここにいろよ、式」
ただ激しかった律動がおもむろに切り替わった。
式が敏感とする場所を集中的に、じっくり、巧みに刺激する。
式は背筋をぶるりと戦慄させて仰け反った。
茂みの中心であられもなく勃ち上がりゆく性器。
虚空でピクピクと跳ね、淫らな蜜に濡れていく。
「淫乱」
眉根を寄せて切なそうに喘ぐ式に見惚れ、隹は、笑みまじりに罵った。
「お前のために座敷牢でもつくるか」
そう。
隹は俺を閉じ込めたがる。
外界から引き離して、自由を奪って、人生を限りなく狭くする。
「……俺のこと、そんなに……信用できない……?」
あからさまに痙攣していた式に隹の長い指が絡まった。
「あ、隹……っ」
「信用する、しないの問題じゃねぇよ」
「待っ、ぁっ、ぁっ、ゃぁ……っ」
「ただ単にお前は俺のもの。それだけの話だろ」
隹は繋がりを一端解いた。
虚脱しかかっていた式を座布団の上に仰向けにし、両足を抉じ開けるや否や、濡れそぼっていたペニスを根元近くまで頬張った。
吸い上げられた式は唇に歯を立てた。
生温い口腔に閉じ込められて咀嚼され、成す術もなく達した。
「……っあ……っあ……っあ……っ」
式の欠片を最後の一滴まで飲み干した隹は、次に、達したばかりの式を四つん這いにした。
聳え勃っていたペニスを悩ましげに収縮する蕾孔奥へ捻じ込む。
絶頂に向けて一気に加速する。
「あッッあッッあッッ」
「何だろうな、式……お前がここに来たときから。ずっと。心臓にトゲでも刺さってる気分だ」
「ッ……ッ……ッ」
「お前中心に世界が回ってる」
霞む視界に遠い遠い残像を式は拾い上げた。
『お前は壊れても綺麗だよ、式』
鮮やかな血の色に半身を赤く赤く染めた……。
この定めはいつだって一つの結末を迎える。
いつもいつも同じ。
それもまた宿命なのだろう。
「彼岸花。今年も大量だ」
障子の向こう、庭園の端にずらりと並んで咲き揃ったシビトバナ。
冷えかけた風を浴びていた式は膝枕してやっている黒衣の隹を見下ろした。
「彼岸からも見えそうなくらい、赤い」
不穏に揺らめく鮮血色の花。
刃さながらに宵闇を切り裂く三日月。
入れ代わる日と夜。
滲む境界線。
式を殺すように愛する隹。
そして。
自分のせいで狂気に食い散らかされていく隹を止めるために。
愛するように殺す式。
いつだって同じ結末を辿る二人。
「式? 変な名前」
「隹、だって、変な名前」
縁側で並んだ幼い二人。
「うるせー」
浅く腰掛けて足をぶらぶらさせている式に対し、ひんやりした床板に寝転がっていた隹は笑った。
「あの花、なに?」
「ヒガンバナ」
「ひがんばな……ねぇ、隹って、ぼくと会ったこと、ある?」
「ないだろ」
「ほんと?」
「なんで泣いてんの、式」
隹に言われて式は自分が泣いていることに気が付いた。
暮れなずむ空の下、巣を目指すカラスの鳴き声がどこからともなく聞こえてくる。
広い屋敷の奥からは妻の金切り声、夫の怒鳴り声が。
「おかーさんのこと、思い出して、泣いてんのか」
自分自身、どうして泣いているのか理由がわからずに不思議そうにしている式に一つ年上の隹は寄り添った。
白い頬をぽろぽろ流れていく涙を両手で拭う。
初めて覚える胸の高鳴りに身を任せて。
拭い残した涙の残る唇にキスをした。
「おれがずっと一緒にいてやるよ」
ねぇ、隹。
次の世界では、貴方と二人、幸せになれるかな。
どれだけ狂わされてもまた会いたい人。
記憶が蘇る瞬間はいつだって。
「待ってるから、隹」
涙する式に殺される、死に呑み込まれる、その三秒前。
次こそは絶対に。
お前を泣かせたりしない、式。
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