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Overcome/少佐×部下
■汚染された土、有毒の水、スモッグで濁る大気。
よって誕生した脅威の新人類「三つ目種」は狂気なる飢えを本能とする共食いの傾向あり。
彼等の最初の餌となるのは母体だ。
恐るべき速度で変態した幼生は腹を食い破り、生まれ持つ鋭い歯で血肉まで平らげ、産声の代わりに惨たらしい断末魔を母親の口から響かせる。
世界を穢した旧人類を滅ぼす勢いで彼等は手当たり次第に食い尽くしていく。
胎児の成りのまま醜く肥大し、怪物の如き肥満児 となって。
彼等は殺せる。
しかし彼等は次々と交尾し増殖する。
純血の次世代は最早人のかたちも成さない、虫と呼ぶに相応しい粘液塗れの甲殻を纏った有機体に過ぎない。
街は朽ち、緑は栄え、世界は旧人類の激減によって洗われていく。
残された生存者達は地下へと逃げ延び、時に太陽を恋い焦がれ、美しい樹海と化しつつある地上へと顔を出す。
諸君、その時には最大限の警戒が必要なのだ。
「太陽の下で死ねるんだ」
式は顔に飛び散った同胞の血を拭うのも忘れてその場に佇んでいた。
夥しい触手に半身を千切られ、傷口から大量の血と共に内臓を覗かせた男は最期に笑って言ったのだ。
「これでいい……とても満足だ」
そして仲間の男は死んだ。
すぐ隣で激しい苦痛に痙攣していた手を握り締めていた隹は、力尽きたその手を離し、静止した眼を閉ざしてやった。
「こいつは死ぬつもりだった」
胎児達のおぞましい産声を少し遠くに聞きながら、隹は立ち上がり、佇んだままでいる式と向かい合った。
「先祖がかつて立っていたこの大地で。太陽の光が惜しみなく降り注ぐこの地上で」
灰色の瓦礫の向こうに見える空はどこまでも青く澄んでいて、地下の人工的な明かりに慣れていた双眸を容赦なく射抜くようだった。
吹く風は清涼で。
青々と生い茂る木々の葉を揺らめかせては静かに舞い散らせている。
眩い陽光の恩恵を授けられた大地の清々しい香りが隈無く満ちていて。
そこは美しい世界だった。
胎児と虫の群れに守られた清浄なる神の庭だった。
「……私達は、もう、ここにいるべきものではないのでしょうか」
親しかった仲間の亡骸に一筋の涙を手向けて式は隹に問いかけた。
「朽ちていくべき存在なのでしょうか」
「さあな。それは誰にも決められないと思うが」
下ろしていた機関銃を背に担ぎ、ショットガンに弾を込めながら隹は不遜に笑う。
「俺は生きたい。だから生き抜く。人間らしいエゴだと思わないか」
水晶色の鋭い双眸が日差しを浴びてさらに冴え冴えと煌めいた。
ハーフアップに結ばれた月色の長い髪が靡き、白い頬の上で瓦礫の影と日の光がせめぎ合う。
「……そうですね」
血煙に霞む命の駆け引きまでして地上に度々向かうのは愚かだと言う者がいる。
彼等は、生き抜きたいのではない。
生き残りたいだけだ。
それが悪いとは言わない。
嘲笑もしない。
だが、この光を知らずにいるのは愚かだと思う。
美しいこの世界を。
「戻るぞ、式」
「はい、少佐」
私は、私も決して死なない。
貴方の隣でこの時を生き抜く。
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