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Kill Me More/敵幹部×捕虜

■隹少佐らが率いる敵組織に囚われた式。 「俺を殺したいのなら俺のそばにいろ」 無様に生き長らえるか、愚かに死に急ぐか、それとも………… 「狼が羊の皮を被るのはやめろ、式」 式はかつてない底なしの闇に堕ちていくような気がした。 現在、式は捕虜だった。 捕虜にしたのは別の地からやってきた、突然、それまで平和であった地に血塗れの恐怖をもたらした侵略者、女も子も見境なく手にかける殺戮集団だった。 それまで平和であった地を守っていた「弱きを助け強きを挫く」を掲ぐ自警団組織に身をおいていた式は仲間と共に敵と戦った。 かつて自分を凍てついた虚無の底から救ってくれた幼い主君のために、固い絆で結ばれた友のために。 そして。 「羊の群れかと思えば悪くない切れ味の牙を持った奴がいるじゃないか」 敵幹部の隹少佐と相まみえた結果、叩きのめされ、囚われの身となってしまった。 全身を貫く痛みに意識を攫われる寸前、崩れ落ちた式の目に写ったのは、無情なる侵略者の牙に屠られて息絶えた多くの仲間達だった。 「捕虜など不要ではないか、隹」 冷たい床上、鎖に拘束されていた式は重たい瞼を懸命に持ち上げ、敵が拠点としているアジトの地下室入り口で話をしている彼らを視界に捉えた。 「私達はこの地を根こそぎ奪う予定、交渉など無用、先住者は抹殺する、そうではなかったか?」 怖気を奮うくらいの美丈夫、腕章つきの立派な黒軍服を纏いワインレッド色の髪を一つ縛りした隻眼の男は、敵幹部の一人、繭亡少佐、強靭な鋼糸を仕込ませた鞭で一度に複数の首を刎ね落とす残虐なる男。 「……家畜の世話人など我が隊からは出せん」 包帯で顔を殆ど覆い隠して墨色に澱んだ獣性の眼を不気味に光らせる無口な長髪長躯の男は敵幹部の一人、阿羅々木少佐、慈悲なき大鉈で命乞いする相手の骨まで問答無用に断つ嗜虐的なる男。 同階級の強者二人に見据えられて平然と笑っているのは。 「ほんの暇潰しだ、大目に見ろ」 隹少佐だ。 月と同じ色の髪が鋭く不敵な青水晶の双眸を無造作に覆っており、カーキ色のミリタリーコートを屈強な体に羽織り、手には革手袋、さっきからブーツの底で意味もなく床を鳴らしている。 彼が最も多くの人々を殺した。 発達した爪の如き異国の武器、手甲鈎(てっこうかぎ)で瞬く間に己の周囲を血飛沫に染め上げていた。 彼の片頬には傷が一つだけあった。 夕べ、式が刻みつけた傷だ。 ……奴だけは俺が殺す……。 耐え難い苦痛に意識を蝕まれて再び重苦しい眠りに呑まれる寸前、式は、そう思った。 「こいつ、死ぬまで泣き喚いてた女どもより美人じゃねぇか?」 下級兵士達に囲まれた式は床に倒れ臥したまま、精神力で痛みを打ち負かし、下卑た笑みを浮かべる彼らを睨めあげた。 どれだけこの身が打ち砕かれようと心は明け渡さない。 どんな責め苦にも耐えてみせる、それが恥辱でも、肉体の愚弄でも。 死んでいった仲間のために。 あいつを殺すために。 「何している、お前ら」 下級兵士が鎖だらけの式へ正に肉体の愚弄へ至ろうとしていた矢先に。 隹少佐が地下室へやってきた。 彼は自分の直属の部下である下級兵士をその場で平然と切り刻んだ、階段を上って自分で手当てできるだけの余力は残してやるという手加減つきで。 「お前と対峙した瞬間、俺は思ったんだ、式」 自分が手にかけた弱者の最期の一声で式の名を知った隹は言うのだ。 二人以外、誰もいなくなった地下室。 どこからか彷徨いこんできた蛾が裸電球の周囲を飛び回っていた。 「お前にこの傷をこの身に産み落とされた瞬間。お前は俺と同類だって、な」

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