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Kill Me More-2
過去、式は殺し屋だった。
ここより遠い地で、氷の心で、雇い主から次々と決められる標的に止めをさし続けていた。
氷の心を溶かしたのが今の主君だった。
『きみは間違ってるよ、式』
常に清く正しく純真で、穢れなき光。
深い罪に溺れてきた我が身が中てられるほどの……。
「羊の群れに戻るのはやめろ、式」
「……俺を貴様と……っ一緒にするな……!」
捕らえられて、やっと初めて口をきいた式に、隹は不敵な笑みを深めた。
「いいや、一緒だ」
「違う!」
「お前が俺に向けるそれは煽られるくらいの殺意だが?」
「……ッ」
「お優しい善良なるクソ弱い虫ケラどもが放つものじゃない」
「仲間を侮辱するな!」
手負いの捕虜に敵幹部の一人は跪いてさらに近づいた。
鎖に肢体を囚われながらも牙を剥きかねない様子で射抜くような視線を突きつけてくる式に隹は笑みが止まらない。
「俺を殺したいのなら俺のそばにいろ」
「あ……っぅ……ぁぁ……っ」
実際、初めて受ける肉体の愚弄は式に相当な負担を及ぼした。
両腕を鎖で雁字搦めにされ、血がこびりついてボロボロだった服をさらに引き裂かれ、両足を抉じ開けられて。
鉛じみた熱く重い傲慢なる肉茎が後孔を責め苛んでくる。
粘膜壁をむやみやたらに拡張し、隙間なくナカを満たす硬く太い、力強く脈打つ肉塊が乱暴に奥を貫いてくる。
「あ……う……ッ」
「その顔でまさか処女だったとはな」
自分の真下で激痛を堪える式から隹は片時も視線を逸らさずにいた。
悲鳴と断末魔が行き交う狂った宴の最中、彼は隹に狙いを定め、向かってきた。
間に入ってきた下級兵士を鮮やかに斬り斃して。
繭亡が振るう鞭をかわし、阿羅々木が振り下ろす大鉈をよけて。
引き締まったしなやかな体をバネの如くしならせて、射貫くような視線でもって、己の牙を翳してきたのだ。
「狼は羊を狩ってこそ牙を研ぐことができる」
猛り育った肉茎に容赦なく噛みついてくる肉の締めつけに隹は愉悦する。
声を上げるまいと唇をきつく噛んで揺さぶられている式に顔を近づけ、欲望のまま、口づけを。
「ッ……!!」
唇を割って入ってきた欲深な舌に式は目を見開かせた。
侵入を許さず恐れもなしに歯を立てた。
それでも隹は引かない。
肉茎の先端で後孔奥を掻き回しつつ、血の味の滴る口づけを続けた。
「んん……!!」
……年齢は自分よりも下、二十代半ばか。
隹は傲慢極まりない口づけをしながら、まるで恋人じみたひどく優しい手つきで式の解れていたセピア色の髪を梳いた。
逃げがちな舌を無理に絡めとって唾液を馴染ませた。
角度を変え、貪るように、口内を陵辱した。
「ふ……ッぁ」
手負いのくせに常に凛としていた表情が苦しげに歪む。
勢いをつけて三、四回、最奥に肉茎を打ちつけてやれば扇情的な眉根の皺がより増えた。
窒息させるように唇を深く塞いだまま一気に律動を速めれば、猛獣並みの拘束ぶりで式に絡みついていた鎖が一際耳障りな音を立てた。
「ん……っんん……! っう……ぅ…………!!」
式の目尻から滲んだ涙が流れ落ちる、そんな捕虜の悔し涙を見つめながら、隹は彼の奥で一思いに達した。
信じられない。
敵幹部の最も殺したい相手から犯された挙句、我が身の底にその子種を植えつけられるなんて。
白濁で濡れそぼつ後孔奥、まだしぶとく怒張している隹の肉塊に式は歯を食い縛る。
上体を起こしていた隹は全身を引き攣らせて悶絶する捕虜の様に鮮血香る唇の片端を吊り上げた。
片手の革手袋を口で外し、素手で、汗ばむ肌をなぞってみた。
「……ッ触るな!」
震えてはいるが気丈な式の声に笑う。
「処女喪失に至った割りには平気そうだな」
「だま、れ……っ」
「俺の勘違いか。本当は使い慣らしていたか」
「侮辱するな……! っ、あっ」
自分ほどではないが引き締まった式の腹筋を隹はゆっくり撫でる。
そのまま肌伝いに胸元まで愛撫の範囲を広げる。
突端に色濃く際立つ尖りを指の腹でやんわり押し潰す。
「やめっ……」
身を捩じらせる式。
これまでと違う反応に隹は気をよくする。
未だ式の後孔に硬く息づく肉茎を埋めきったまま、指先による蹂躙を色濃い尖りに捧げる。
「あ……ッ俺に触るな……っぁ、く」
もう一つも革手袋越しに熱烈に捏ね繰られ、それぞれ違う感触の指腹に両方の尖りを刺激され、式は仰け反った。
たくさんの傷に彩られた滑らかな肌に鎖が食い込む。
新たな鬱血が刻まれていく。
「う……っあ……う」
隹は式の首元に巻きついていた鎖を外した。
呼吸がいくらか楽になり、大きく息を吐き出して体の力を反射的に抜いた、その瞬間。
執拗に捏ね繰り回されていた尖りの一つに隹の口づけが。
「ッ……!!」
意外なくらい緩やかな舌遣いで張り詰めた尖りを舐められる。
舐められながら、後孔奥に埋まったままの肉茎を小刻みに突き動かされる。
解放された欲望の飛沫を纏い、最初よりも潤滑に繰り返される抽挿。
あられもない結合部から粘着いた水音が後を絶たない。
「は……っはぁ……っあ」
懸命に喘ぎ声を我慢している式の姿に隹は煽られるばかりだ。
どこかストイックでしなやかな捕虜が濡れた唇をきつく結んで呻吟している様を上目遣いに見つつ、次は飢えた獣さながらに荒々しく尖りを啜り上げる。
革手袋を外していた手を下肢へ移動させていく。
萎えていたはずが、淫らな施しに徐々に熱をもちはじめた式のペニスに触れる。
「あっ!?」
「いかせてやるよ、無様にな」
筋張った長い指もつ掌が上下に竿を撫で擦っては先端まで露骨に愛撫し、先走りの蜜を強請る。
だらしなく蜜が滴り始めれば五指に纏わせ、絶妙な速度で再びしごき立ててくる。
「あっあ……いやだ……っやめ……、……ん……っ!」
「ああ、ここがお前のイイ場所か……」
搾るように細やかにペニス先端をしごくのと同時に、式が反応を見せた後孔内、前立腺の奥に隹は肉茎を強めに擦りつけて。
唾液に溺れてひくつく尖りに浅く歯を立て、そっと、噛みついた。
「あ……っぅ……やっ、いやだっ、ぁ、っあっ……あ……ぁ」
こんな男に犯されて……俺は……。
こんなにも……どうしようもなく……体を支配されるなんて……。
「ッッーーーー…………!!」
式は隹に犯されながら達した。
涙するように白濁の雫を散らした。
式はかつてない底なしの闇に堕ちていくような気がした。
「狼が羊の皮を被るのはやめろ、式」
夜通し肌を重ねた末、とうとう虚脱した捕虜を地下室に残し、階上へ顔を出してみれば。
れっきとした殺気を放つ少佐二人が隹を待ち構えていた。
「あの捕虜は気に喰わない」
「……殺させろ、隹」
己の渾身の一撃を唯一掻い潜った式、その存在は繭亡と阿羅々木にとって矜持を揺るがす不愉快極まりない、もし殺したとしても一度だけでは到底殺し足りない相手だった。
二人の尋常ならぬ殺気を正面から浴びた隹は平然と笑う。
「まぁ、あれだ、大目に見ろ」
俺を殺したいのなら俺のそばにいればいい。
俺の影でお前は命を繋ぐことができるだろう。
美しいその牙でもっとこの心臓を裂いてみろ、式。
冷たい地下室で捕虜の式は眠る。
隹のコートに我知らず包まって。
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