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Forgiveness/神父×吸血鬼
降り積もった枯れ葉が風に吹かれて乾いた音を立てる。
頭上に生い茂る枝葉の隙間からは柔らかな木漏れ日が差し、白昼でも薄暗い森の中に光の梯子をつくっていた。
冷ややかに澄んだ空気と限られた日向の温もりが溶け合って、心地いい。
姿の見えない鳥の甲高いさえずりが時折静寂を震わせる。
野を駆ける獣は清らかな水辺でまどろみに落ち、ひと時の夢を見る。
吐く息は薄闇に白く、光の元でゆっくりと消えた。
大木の根元に腰を据えた黒装束の神父は薄闇に降りる光の粒子を眺めていた。
おもむろに手を差し伸べて日向に翳すと惜しみない太陽の恩恵を感じ取る。
生命の息吹を助ける輝きは眩く荘厳で、ただ美しかった。
神父の膝上に頭を乗せて眠っていた者は些細な身じろぎにより目を覚ました。
「ああ、すまない」
目覚めに気づいた神父が謝る。
それには答えず、寝返りを打った彼の者は光をいっぱいに受け止めた大きな掌を上目遣いに見やった。
穏やかな午睡を引き摺る切れ長な眼が幾度か瞬きを繰り返す。
色味の強い唇はうっすらと開かれていて無防備だ。
癖のないセピア色の髪が耳元を滑り、頬を覆った。
青水晶の双眸に緩やかな笑みを湛えた神父はその蒼白の頬に掌をあてがった。
神父の腹に覆い被さってうつ伏せていた彼は一瞬身を硬くし、それから静かに双眸を閉ざし、ロザリオの外された胸にもたれかかった。
「お前の手から太陽を感じる」
しなやかな体躯に草臥れたジャケットを羽織り、塗装の剥げ落ちた革靴を傍らに脱ぎ捨てて裸足でいる彼は、そっとため息をこぼす。
彼はこの森の懐に息を潜める吸血鬼だった。
光の元では息ができない彼を哀れみ、その呪われた身を愛した神父は度々ここへ出向き、誰にも知られる事なく逢瀬を重ねる。
我が主よ。
この者は永劫に赦しを得られぬ罪深き者。
闇夜の申し子を光よりも美しく思うこの身もまた、同じ。
地獄の業火に抱かれて一つになれるのならば共に堕ちよう。
我が魂は汝のもの、愛しい吸血鬼よ。
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