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Bad Eden-3

中二階を敷き詰める、バンブーカーテンで仕切られたVIP専用のボックス席。 手摺り間際のイスに腰掛けてフロア観賞に悠々と興じる客もいれば、奥のソファでふしだらな交歓に耽る客もいる。 最も奥に位置するVIPルームは大人数向けで値段も張り、本日は空いていた場所へ式は運ばれた。 「ほら、水だ」 スタッフが用意した、アイスペールに山盛りの氷を唇奥に一つ突っ込まれて、式は文句も零さず素直に口に含んだ。 鳴り止まない重低音。 中二階にいる客達の哄笑や嬌声が時に紛れる。 壁にとりつけられた間接照明のウォールシャンデリア。 惜しみなく光沢を放つ深紅のレザーソファ。 バンブーカーテンの向こうで延々と繰り返される酔狂な夜。 「俺……クスリを……飲まされた……?」 「ああ。下半身が主に飛び切りハイになるやつな」 「……」 「媚薬。聞いたことあるか」 どうして楽しそうにしてるんだ、こいつ。 腹が立つ……。 大体、いつまで馴れ馴れしく抱えてるつもりなんだ……。 「もう、帰る……セラが、待ってる、から」 「この状態で帰るつもりか」 ソファに腰かけた隹に横抱きにされていた式は目を見開かせた。 何の断りもなしに下肢の熱源に触れてきた不躾な手。 マナー違反を平然と犯されて驚いたし、なおかつ、自分自身の昂ぶりをまざまざと知らされて閉口した。 「セラに処理してもらうつもりか?」 離れるどころか、れっきとした愛撫を綴ってきた隹を式は涙ながらに睨みつけた。 「セラと同級生ってことは十七か」 爪の先まで蝕み尽くす病的な火照り。 舌の上であっという間に溶けた氷。 脳内がぐちゃぐちゃに掻き混ぜられているような危うい心地に動悸が止まらない。 熱い。 どうにかなってしまいそうで、怖い。 「俺が楽にしてやる、式」 青水晶の目に誑かされそうで泣きたくなる。 「っ……やだ、嫌だ……っ」 「礼は後でいい」 「隹っ……待って、やめ……っ……あ……っ」 「優しい俺に感謝しろ」 細身の体をいとも容易くソファに押し倒し、うつ伏せにしたところで、隹は式の下肢の服を慣れた手つきで緩めた。 下着の内側ですでに変形していたペニスを握り締めた。 「あっ」 ビクリと跳ねた細腰、反射的に洩れた声に隹は愉悦する。 「もうすっかりハイになってるな、お前の」 「嫌だっっ……もう、いいから、俺に触るな……っ」 甘苦しい目眩を強制されて今にも遠ざかりそうな思考を必死になって手繰り寄せ、式は、抵抗した。 弱々しい抵抗は無残にも捻じ伏せられた。 窮屈な着衣の下で意地悪な掌に嬲られる。 取り出され、上下に愛撫されると、色鮮やかに染まった純潔は耐えられずに涙した。 式はひやりと冷たいソファに爪を立てた。 「や……だ……こんな……もう、さわらないで……だしたくない……」 身悶えて嗚咽する式の真上で隹は笑う。 「射精()さなきゃ楽になれない」 「はぁっ……ぁっ、っ……やだ……」 「お前は何にも悪いことなんかしていない」 初心な体を残酷に支配する悪性の熱に操られ、不躾な手に好き勝手に弄ばれて怯える青少年に、天性の捕食者はとってつけたような声色で言い聞かせる。 「たった一晩の悪夢だ。醒めればいつも通りの朝が腕を広げて待ってる」 あれだけ鼓膜を苛んでいたノイズが薄れて隹の囁きだけが鮮明に聞こえた。 「だから、ほら、もう我慢するな」 隹の真下で式はしどけなく戦慄した。 より一層愛撫を強めてきた掌に白濁した絶望を解放させた。 躊躇なく受け止めた隹は痙攣が止まらない生贄の子羊じみた有り様に失笑する。 いけ好かない世間知らずのガキ。 絆創膏で癒える程度の引っ掻き傷でもつけてやるかと、ブラックリストで見知っていた常習犯の犯行を見逃した。 「よくできた、イイコだ、式」 腕の中で常軌を逸した発熱を未だ持て余し、ひっそり嘆く式を、仰向けにする。 抵抗する気力も失せて脱力しきった青少年はされるがまま媚薬に囚われの身を曝した。 「……隹……」 震える唇で呼号されて、隹は、青水晶の眼を俄かに強張らせる。 パーカーを羽織ったままで全身が汗ばみ、滑らかな頬を紅潮させた式は、霞んだ切れ長な目で隹をぼんやり見つめていた。 濡れそぼった睫毛が重たそうだ。 満遍なく潤んだ目は黒耀石みたいに光って見えた。 しぶとい悪性の火照りに囚われたままのペニスが遣り切れなさそうに涙している。 隹は身を屈めた。 意外なくらい優しいキスを式の額に落とした。 「責任もって俺が慰めてやる」

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