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Bad Eden-6

路上に伸びていた街路樹の影が宵闇に緩やかに呑まれていく。 夜が次第に濃くなっていく。 燦然と瞬き出す街明かり。 夜行性に目覚めて活発になりゆくありふれた週末世界。 「はぁっ……ぁっ……ん……っ」 隹の部屋では。 床に投げ捨てられた制服、スーツ一式、仄かに残っていた温もりは当に失せて点された間接照明にだらしなく浮かび上がっていた。 「っ……もう……帰らせて……」 制服シャツとネイビーのハイソックスだけを身につけた式は捩れたシーツの上で哀願する。 「今、何時……家族のみんな、きっと心配してる……俺のこと待ってる……」 無慈悲に押し開かれた両足。 式のなかに居座り続けている隹はため息まじりに低く笑う。 「俺を置き去りにして帰るなんて、案外、薄情者なんだな」 汗をかいた瞼を途中まで持ち上げ、半開きの目で、薄闇に惜し気もなく肌身を曝しきった隹を式は見上げた。 「こう見えて淋しがり屋でな」 不意に広い背中を屈め、適度な筋肉のついた見栄えのいい体で細身の体躯を覆い尽くし、紅潮しきった耳たぶのすぐそばで隹は言い放つ。 「帰さない」 鼓膜に直に熱い声を注ぎ込まれ、仮膣のさらに奥まで肉なる杭で貫かれ、途方もない刺激に式は身を竦ませた。 「あ、ぁ、あ、っ」 「ほら、わかるか、式、お前のもっと奥に挿入(はい)った」 「や、め……もう、お願いだから離して、」 「離さない」 「ッ……だって、もうずっと……こんなこと、」 「やめない」 すでに一度濃密なる飛沫を放ち、白濁で温むペニスを欲深く動かし続け、隹は式との交歓を執拗に堪能していた。 「あ」 背中に片手をあてがわれたかと思えば抱き起こされて式は首を窄めた。 隹の膝上に座る格好となり、自分の体重がかかって、後孔いっぱいに突き進んできた貪欲な肉杭に胎底をビクつかせた。 「や……だ、隹……」 「俺にしがみついてろ」 「だ、めっ……あ、ぁっ、っ、そんな、揺らしたら……っ」 「奥に当たるか」 言われた通り肩にしがみつき、掴んだ腰を揺さぶられると爪まで立てて嗚咽した式に、隹は見惚れた。 二人の狭間で屹立していた青少年の昂ぶりを握り込む。 まだ達することができずに熱を溜め込んだペニスを上下に撫でる。 病みつきにならざるをえない肉圧が増した。 全身を滾らせる声が緩んだ唇から迸った。 「隹……っ……だめ、むりだっ……こわい……」 奪うだけじゃ足りない。 俺の全ても奪ってほしくなる。 「息……できない……」 「俺もだ」 酸欠の如く喘いでいた式の落ち着かない腰に片手を添え、隹は、酷なくらい彼のペニスをしごき立てた。 不慣れな恍惚を怖がる無垢な体に自身の杭を激しく打ちつけた。 罪悪感をかなぐり捨てて肩に深々と縋る爪一片すら物欲しくなる……。 「残念ながらこれは醒めない悪夢だ、式」 静謐なエデンから突き落とされた代わりにさなぎは羽化し、生まれ立ての翅を震わせ、慣れない恍惚と現実の狭間を危なっかしげに彷徨する。 「式、どこ見てる」 「っ……っ……す、い……」 「俺を見てろ、俺だけをな」 不敵な青水晶を道しるべに、元凶の捕食者に縋りついて、自分自身も罪深い蜜に溺れていく。 「隹! 早く説明してくれる!?」 「朝っぱらから騒がしいな、発情期に突入したか、セラ」 「もうお昼だし、式の携帯に電話したらどうして出たのか、来たら教えてやるって言ったわよね、ほら、わざわざ来てやったわよ、だから……さっさと……」 土曜日の正午直前、何度も訪れたことがある兄の幼馴染みの自宅へ詰めかけたセラは忽ち棒立ちになった。 「……セラ……?」 中途半端に開かれたカーテン。 穏やかな日差しを浴びた、ゆったりとしたベッドの上で清潔な寝具に塗れていたクラスメート。 セラの訪問で目覚めたばかりの式は伏臥していた身を僅かに起こし、かけられていた羽根布団が剥き出しの肩をさらりと流れた。 「目覚まし時計の代わりになってくれて感謝する、セラ」 部屋着のイージーパンツにシャツをざっと羽織っただけの隹は、準備していたホットコーヒーをセラに、もう一つのカップを式の元へ運んだ。 「火傷に注意しろ」 「……今、何時……早く帰らないと……」 「お前の家には俺が早朝連絡を入れておいたから心配するな、ほら、セラが来たぞ、遅起きにも程があるお前を起こしにわざわざ出向いてくれた」 「……そうなのか……ありがとう、セラ……」 いまいち覚醒しきれていない、長引いた夜の名残を切れ長な目に引き摺った、ぼんやりした眼差しの式は一番親しいクラスメートに礼を述べた。 隹はクッションを立てかけたヘッドボードに式をもたれさせ、羽根布団をかけ直してやり、乱れていた髪を愉しげに梳いた。 正直なところセラは昔からいけ好かない隹に膨大なる殺意を抱かずにはいられなかった。 だが、しかし。 清らかな日の光を寄り添わせた瑞々しい肌身が、唇が、目が、式の全てがこれまでの日々の中で一番綺麗に見えて羨ましくも思った。 「おはよう、式、遅いお目覚めね」 隹に息を吹き込まれてBad Edenへ羽ばたいた最愛なるクラスメートに、そっと、失恋した。

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