「どうした、これだけでイキそうか？」 やっと顔を離した隹に揶揄されて式は無謀にも言い返そうとする。 が、また繭亡に唇を奪われて言葉さえ封じられた。 素肌から遠退いていた隹の手が再び帰ってきて、脱げかかっているシャツの下に潜り込み、胸元にまで伸びた。 「ッ……！」 胸の尖りを押し潰される。 一方、繭亡の手は引き締まった下腹部を這い、革手袋が及ぼす危うい違和感に式の皮膚は総毛立った。 二人から交互に屈辱のキスを注がれ、淫らに大胆に触れられて、己の意志とは反対に体の芯が熱くなっていく。 断ち切れない欲望の連鎖とこの恥辱を呪って、禁忌とすべき興奮に中てられた思考の中、式は浅ましい自分自身をも罵った。 「物欲しそうな顔つきになってきたな、式」 繭亡が濃厚に口づけているのを上目遣いに見、隹は式の喉骨を尖らせた舌先でなぞった。 「お上品なお前の事だから、一夜限りの女と寝るような真似はしないで、日々の性処理は自分の手で済ませているんだろうな……他人にイカされるなんて久々か？」 「ぁ……ッ」 首筋の動脈を伝い、鎖骨を通り過ぎて、とうとう隹の口が淡く色づいた胸の先を捕らえた。 そして、背後へと立ち位置を変えた繭亡の手も下の着衣をずり下ろして、熱を帯びてきた式の下肢の中央に触れた。 「……ッ……！」 一段と揺れた式の体に容赦ない二人の愛撫が襲い掛かる。 何とか声を抑えようとしても、口内に忍んだ繭亡の指が邪魔をして、口を閉ざせない。 歯列が革の生地に食い込むだけで荒れた息遣いはこぼれるだけこぼれた。 切れ長な瞳をきつく閉ざして怜悧に整った顔を歪ませ、式は獣性の発情に駆られるしかなかった。 隹の暴力的な舌が突起を弄んで、きつく吸い上げ、尖りを隈なく濡らしていく。 革手袋のざらついた感触が勃ち上がりつつある火照りをゆっくりと摩擦して、先端をもどかしげに刺激する。 「ン、く……ッ」 「可愛い反応だな、初々しいよ、全く……娼婦とやるより刺激的だ」 「いっそこのまま我が組織の奴隷にするか」 思いも寄らない繭亡の発言に式は動揺した。 隹ならまだしも、彼までそのような台詞で自分を貶めようとするなんて、ショックであった。 駄目だ、まだ俺は彼に一縷の望みを期待している……無駄だとはわかりきっているのに、どうして……。 「兵士達のいい捌け口になるだろう……どうだ、式……？」 少し低めの艶のある声がし、耳朶にキリリと犬歯の立てられる刺激が走って、式は呻吟した。 彼の手に触れられているのかと思うと、心臓の裏側が打ち震えて、全身にその甘い震えが感染していくかのようだった……。 「あ……ッ」 式の息がさらに上擦った。 隹の片手が剥き出しになった尻たぶを強く掴んで、揉みしだいてくる。 その上、最も長い指先が秘められた個所に届き、愕然となった。 「いきなり犯すのも酷だからな。まずは指で慣らしてやるよ」 「なッ……そんな、ッぁ、ッ……！」 乾いた指先に一気に貫かれて式は仰け反った。 急な侵攻に反応した彼の火照りが繭亡の手の中でより強く跳ね上がる。 途端に溢れ出した先走りの滑りが上質な黒革を汚して卑猥に湿らせていった。 「あ、ぁ……ッ、ン」 深く浅く無慈悲に突き入れられ、揺らめく式の背を正面で受け止めていた繭亡は、また移動した。 式の前に回って、跪き、明け透けに息づく火照りを面前にする。 薄赤い色に染まったそれは先端から溢れる前液に塗れて淫猥な煌めきを放っていた。 「……！」 さらに指がもう一本追加されて、普段は閉じられているそこが無理矢理押し拡げられる。 痛みと、初めて覚える際どい感覚に式の意識は朦朧となり、繭亡が及ぼうとしている次の行為に全く気づかずにいた。 跪いていた繭亡は、式の根元を握り締め、膨れ上がった欲望の先端に舌を伸ばす。 「ッ、繭亡……！」 狼狽の声を上げて式は腰を引いた。 おかげで隹の指に自ら深く屠られる結果となり、掠れた悲鳴を出してしまった。 「悪くないな、もっと善がれよ、式……盛り上がる」 横に位置する隹は中指と人差し指で式を蹂躙しながら、舌なめずりの音を立てて胸の突端を舐め回す。 繭亡は極上の舌遣いで発情した欲望を蕩けさせんばかりに攻め、放精へと追い立てる。 「あ、ぁ……ッ、ぁ……ッ」 先端の割れ目をゆっくりと嬲り、裏筋に激しくむしゃぶりついたかと思うと、全体を頬張ってしとどに濡らす。 時に根元を緩やかに扱いては一気に上り詰めさせて、戯れに中断する。 一方、隹は体内に沈めた指をバラバラに動かして独裁的な快楽を式に惜しみなく与え続けた。 式はとうとう達した。 繭亡の口腔へ濁った白濁を勢いよくぶちまけた。 「……ああ、イッたのか？」 隹が愉悦の声を出す。 式は屈辱の余り深く俯いて、誰とも視線を合わせないようにしていたのだが、立ち上がった繭亡が冷然とそれを破った。 細い顎を持ち上げて繭亡は式に口づけた。 自分が放った白濁を流し込まれ、式は目を見開き、呻く。 自然と涙が湧き上がってこめかみへと流れ、透明な跡を肌につくった。 それを見つけた繭亡は、一つ瞬きして、彼から離れた。 「ここは広すぎて気が散る、別の部屋に行こう」 繭亡の感情のない美しい顔を、式は、気の遠くなるような思いで見つめたのだった。