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Falling-3

コンクリートが打ち放しの、冷ややかな空気が沈殿する部屋の隅に矢鱈と広いベッドがある。 シーツはなく所々解れたスプリングが置いてあるだけで、錆びかけたパイプ製のさも粗末な外見だ。 その夜、か細い断末魔にも似た嬌声はそのベッドの上で絶える事がなかった。 「女になった気分はどうだよ、式」 ギシギシと軋むスプリングの音色が部屋の四隅に響き渡る。 「善すぎて声も出ないか、なぁ?」 服を剥ぎ取られ、ベッドに突き飛ばされた次の瞬間から彼等の捕食は始まった。 「ッあ、ッ……はぁ……、ッ」 横になった隹の上に跨らされて、その身に彼の怒張した肉塊をくわえ込み、式は頭側のパイプを掴んで喘ぐ。 下から幾度となく突き上げられて、太く猛々しい楔で肉の狭間を掻き乱されて、全身が汗まみれるになるのに長い時間はかからなかった。 「ン……ッ」 自分が動く度に過敏に反応する式を見上げて隹は満足そうな笑みを浮かべた。 締まりのいい臀部をしっかり両手で掴んで固定し、猛烈に攻め立てる。 手錠を外されてもこちらの意のままになるしかない捕虜の身が哀れで滑稽でならず、まるで、新しい薬物にはまった気分で彼は没頭していた。 壁際に佇んで仲間の荒淫を眺めていた繭亡は、軋むベッドに歩み寄って、おもむろに乗り上がった。 「おい……イクまで待ってろよ」 繭亡の接近に気づく余裕もなく喘ぐ式を横目に隹が言った。 「何も交互入れ替わりでなくとも、いいだろう」 「は……俺よりえげつないな、お前は」 はだけた襟シャツもそのままに、繭亡は式の背後に腰を据えると、逞しく屹立した楔を露にした……。 「ッ……!?」 式の背中が弓なりに反る。 隹をくわえ込んできつく締まるそこに、新たな侵入を試みる別の肉塊を感じて、身悶えた。 「や……めろッ、ぁ……ッ、ンン!」 式が吐いた初めての哀願に隹は嗜虐的に唇を吊り上げさせた。 繭亡は聞き入れる素振りもなく、引き締まった腰に両手を添えると強引に己の楔を捻り入れた。 式は悶絶し、隹も一気に狭くなった内部で繭亡と擦れ合い生じる悦びに眉根を寄せる。 「ヤバイな……ッ、癖になりそうだ」 息も絶え絶えの体となり、それでも二人のどちらかに突かれると咽び泣いて、式は同時に犯される苦しみと快楽を痛感した。 濡れ渡った下肢の立てる粘ついた音が鼓膜にこびりつく。 隹の強靭な腹筋に反り返った自分のものが触れると、腰をくねらせて、無我夢中で何度も擦りつけて恍惚となった。 たった一夜で堕落した自分自身に、今はかける言葉も見つからないし、念頭にない。 次の極みがただ必要なだけだった。 「あぁ……!」 二人の攻めが重なり、より奥深くに快感が及んで、式は絶頂を迎える。 「く……ッ」 「……!」 繭亡と隹もほぼ同時に達して、二人の濃い白濁は、虚脱した式の中へ呑み込まれた……。 目覚めた瞬間、腰に纏わりつく重たい鈍痛に眉を顰め、腹這いとなっていた式は寝返りもままならずに息を殺して硬直した。 きつく閉じていた目をうっすら開くと、すぐ隣で背を向けて眠る隹の力強く張った肩が視界に入る。 昨夜の痴態がまざまざと脳裏に蘇って式の顔色はさらに浮かないものとなった。 何て事を……。 滅多な事では脅かされない式の切れ長な双眸が曇りを帯びる。 いくつもの赤い情欲の痕跡がいつの間に被されたロングコートの下に散らばっているのかと思うと、目眩を覚えた。 「クソ……」 一言、吐き出す。 しかしそれで気分が晴れるわけもなく、むしろ虚しさが募るだけで、式は黴臭いスプリングに額をきつく押し付けた。 「式」 呼号と共に肩に触れられた。 しかし式は微動だにせずそのままの姿勢でいた。 式の隣で半身を起こした繭亡は、昨夜旧シャワー室に現れた時と同じ格好であり、ただ普段組紐で縛られている赤味がかった長い髪は自然と肩に流れ、珍しく手付かずとなっていた。 「すまないな……つらかっただろう」 「今更やめてくれ」 革手袋ではない、繭亡の直の指先に肌をなぞられて、式は唇を噛んだ。 「私が止めたところで隹は諦めない。それに、私がいなければお前は彼の部下からも恥辱に遭わされていたかもしれない」 「……迎える結果は同じだ、何も変わらない」 衣擦れの些細な音がし、そして、肩に微かな感触。 式はそれにビクリとし、さらに息を殺した。 「本音を言えばな、式……隹一人にお前を独占されたくなかった」 耳を塞ぎたい。 加速する動悸を静めたい。 もう、何も感じたくない。 この男に出会う前の自分へ戻りたい。 「私もまた歪んでいるのさ」 式は顔を上げた。 目線を後ろへやると、自分の肩に優しい口づけを落とす繭亡と目が合った。 所在なさそうに震えている式の双眸を片目で見つめながら、繭亡は、彼の唇に唇を重ねる。 昨夜よりも静かで甘い熱の混じり合うキスだった。 「……ン」 繭亡の歪みを知り、己の歪みをも同時に知らされて、式はただ彼にしがみつく。 希う本心に理性を撃ち抜かれて混乱し彷徨う今、それを共有する相手と温もりを交わす事が、唯一の救いのように思えて。 壁を見据える隹は背後で囁かれる欲情の音色を耳にして、彼等と、自分を嘲笑う。 崩れていく均衡の叫び声もこんなものだろうかと思いながら。

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