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Bloody lovers/敵幹部×捕虜
■血臭の薫る敵対関係にありながら惹かれていく二人。
「俺だけに感じろよ。他の奴には感じるな。そんな声も、顔も、俺だけに」
繋げた唇の狭間から甘い吐息が零れる。
微かに濡れた音が冷ややかな夜気を伝って薄闇へと溶けていく。
「ん……っ」
膝立ちとなって隹を跨いでいた式は声を詰まらせた。
薄目を開けると、同じく双眸を細めてこちらを見つめる視線とぶつかる。
途端に気恥ずかしさが増し、式は屈強な胸板に手を突いて身を離そうとした。
「嫌か?」
そうはさせまいと背中に絡んできた両腕に再び引き寄せられる。
抗えば崩れそうな程度の力に式は従った。
半裸の隹にもたれかかり、ためらいがちに言葉を紡ぐ。
「……その、あれだ」
「何だ」
「だから、その、そんな風に見ないでくれ……恥ずかしいんだ」
視線も合わせずに紡がれた台詞に隹は唇の端を少し吊り上げた。
頷いて式の頬に両手を添える。
自分よりも大きい硬質な感触の掌に式は思わずため息をついた。
「なら、俺は目を瞑る。代わりにお前がしろ」
「え?」
目をやると隹はすでに瞼を閉ざしていた。
月と同じ色をした髪も。
日焼けに疎い白い皮膚も心地よい手触りだった。
逞しく、余計な贅肉など一切ない研ぎ澄まされた筋肉質の体は敏捷さも兼ね備えていた。
戦闘に挑む際の彼はしなやかな肢体を余す事なく酷使して獲物を捕らえる肉食獣さながらであった。
自分だって戦闘経験は豊富だが彼には追い着かない。
体つきも、強さも、違う。
剥き出しの獣性に中てられる時もあった。
操作不能の殺意や憎しみに駆られる事だってあった。
そんな男とこんな夜を迎える事になるなんて。
「……」
初めて式は自分から隹に口づけた。
最初はおずおずと近づいてその唇に唇を被せた。
ぎこちない密着に自分でも嫌気が差し、戸惑って、式は一人赤面する。
すると隹は目を瞑ったままおもむろに唇を開いた。
たどたどしい仕草で式が舌先を進めると、招き入れ、慣れたやり方で絡め取る。
湿った温もりが擦れ合って柔らかな水音が立った。
「ふ、ぅ」
理性が解れるような刺激に式は呻吟する。
互いの唇が唾液に塗れ始めると、たどたどしかった動きが次第に大胆となり、力強く張った肩にしがみついて夢中でキスを繰り返した。
視界を暗闇に預けた隹は式の背に手を回し、シャツの内側へと這わせ、背筋を撫で上げた。
些細な愛撫が今の式には堪らなかった。
息を余計に吸い込み、唾液を下顎へと溢れさせる。
官能的な手つきで背中を撫でながらひくつく下唇を食み、隹は、もう片方の手でシャツのボタンを器用に外していった。
「そろそろ見てもいいか?」
わざわざ許可を求められる。
歯痒い気もしたが、式は「……いいぞ」と、素っ気ない口調を努めて言い放った。
目を開いた隹の視界に式が写り込む。
上気した頬は夜目にも艶やかで、普段は凛としている切れ長な双眸が欲深な熱に浸されているのは壮観だった。
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