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続・ねこになりたくない/リーマン×擬人化猫耳←発情期

■この話は21~27話「ねこになりたくない」の続編になります 注意:式が男ふたなり化します 秋冬の乾いた朝。 異変はいきなりやってきた。 「ん……式……?」 平日、いつも通りの起床時間に目覚めるなり隹は眉根を寄せた。 寒くなってきた最近、自分の寝床にしているソファからベッドへ潜り込んでくるようになった猫又の式が隣に見当たらない。 昨夜もなかなか冷え込んだはずだが、アイツ、ソファで寝たんだろうか。 しかしリビングにも式の姿はなく、少々気にはなったが、出社しなければならないリーマンの隹は一先ず朝の支度に取りかかった。 大方、散歩にでも出かけているんだろう、そう思いつつ洗面所で顔を洗っていたら。 浴室の扉が細く開かれていることに気がついた。 普段は閉めているはずなのに、些細な違和感を覚えた隹は無造作に顔を拭うと、特に警戒するでもなく曇りガラスの戸を大きく開け放ち、そして驚いた。 式が空のバスタブ底に蹲っていた。 手足を縮め、横向きに丸まって、まるで胎児みたいに小さくなっていた。 「どうした、式」 予想外の光景に心臓を戦慄かせ、裸足で浴室に突入した隹はバスタブ内で式を抱き起こした。 熱い。 「……隹……」 苦しげに閉ざされていた瞼が開かれ、名を呼ばれて、意識があることに一安心しつつも尋常でない猫又の熱にやはり鼓動が急かされる。 「具合悪いのか、こんなところで何してるんだ、お前」 上下スウェットの隹の腕の中で、彼のお下がりのだぼだぼパーカーだけを身に纏った式は上擦る声で答えた。 「すごく、あつくて……ここ、ひんやりしてるから、ここで寝てた……」 「あのな……頭はズキズキするか? 吐き気は、ムカムカするか? どこか痛いところあるか」 「……あっちいけ……」 「は?」 見た目は華奢な骨組みの青少年、僅かに呼吸を乱した猫又の式は力なく隹を睨んできた。 「おれにさわるな……会社、さっさと行け……」 力が入らずにぐったりした体で隹の腕の輪から逃げたそうに身を捩じらせる。 滑らかな頬は紅潮し、うっすら汗までかいていた。 微熱以上の体温上昇を懸念した隹は式の額に手をあてがった、すると。 「ん……っ」 黒猫耳をピクンとさせて式は震えた。 紛れもない嬌態を含んだ反応に隹はちょっと動じてしまう。 「式?」 頬を撫でれば、黒猫耳がピク、ピク、ピク。 ぎゅっと目を閉じて声を詰まらせた。 「んーーーッ……」 このリアクション、まるでアレの時みたいじゃないか。 「とりあえず熱測るか、ほら、来い」 「やだっ……」 「駄々こねるな、そもそも人なのか猫なのかよくわからないお前でも病気になったりするんだな」 「病気じゃなぃっ……」 これ、はつじょうき。 「は?」 「はつじょうき……ほかの猫、なってるの、見たことある……きっと、あれとおんなじ」 これは発情期の症状によるもの。 「へぇ……」 意味深な笑み交じりの隹の相槌に式の黒猫耳はブルリと怯えた……。

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