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続・ねこになりたくない-5

本日、胎内射精に初めて至った隹は病みつきになりそうな恍惚感にしばし息を荒げ、式の真上で獣じみた有り様に成り果てていたのだが。 「ッ……おい、式」 またしても驚かされた。 指の次に今度は耳たぶを甘噛みされ、その上なかなか強めに吸いつかれて、式が初めて及んだオイタに思わず硬直した。 ぐる、ぐる、ぐる、ぐる 式は頻りに喉を鳴らして隹の耳を舐めたり、噛んだり、引っ張ったり。 目を閉じて頬擦りしてきたり。 また耳たぶに戻って無垢なるこどものように吸って、吸って、舐めて、しゃぶって、舐めて……。 真昼を過ぎて穏やかになりつつある日差しを食い止めた遮光カーテンが、音を立て、捩れる。 すっかりタガが外れた隹。 式を抱き上げ、窓辺で、立ったまま耽り込む。 溺愛してやまない猫又の胎に時間も自制心も忘れてひたすら夢中になる。 発情期の坩堝に落っこちて本能に従順になって交尾を受け入れる式をペニスで貫き続けた。 我が身を惹きつけてやまない、どこまでも芳醇で刺激的な甘い毒の虜になった……。 どこか淋しげに色づいた街路樹の葉がシニカルな風に弄ばれて路上へ舞い落ちる。 「おいしい、これ、おいしい」 「頬についてんぞ、腹ペコ猫」 「ふーーーーッッ」 週末の昼下がり、隹は式を連れて街中のカフェテラスへ、テーブルで向かい合って遅めの昼食をとっていた。 黒猫耳を隠すためジャケットのフードをかぶった式へ手を伸ばし、瑞々しい頬にくっついていたソースを拭ってやる。 式は「ありがとう」を言うどころか噛みつく素振りを見せた。 「恩知らずな猫め」 式の発情期は一日で終わった。 体に訪れていた異変も消え失せ、元通りの雄の体に戻っており、猫又の神秘に隹は驚かされるばかりだった。 「おかわり」 「調子に乗るな」 「けち」 「後からデザートが来るだろうが」 空になったスープカップを両手で持って未練たらしく覗き込んでいる式を前にし、隹は、思う。 俺と式でこどもをつくる。 案外、百パーセント不可能な話じゃないかもしれない。 「隹、食べないなら、おれが食べる」 「……」 テーブルの一点を見つめてうんともすんとも言わない隹に小首を傾げ、式は、彼のワンプレートから食べかけのキッシュを奪い取った。 真綿のような雲に覆われて霞む青空。 カフェの客や通行人のおしゃべり、食器同士の触れ合う音が小さく響く。 隹に教えられた通り、ナイフとフォークでキッシュを雑に切り分けていた式は、ふと手を止めた。 誰かに呼ばれたような気がした。 辺りをきょろきょろ見回し、立ち止まってこちらを向いていた通行人の一人に目が止まって、何度も瞬きする。 彼は式と同じようにアウターに取りつけられたフードを目深にかぶっていた。 見覚えのない男だった。 それなのに懐かしく感じる。 あのひと、だれ……? 「式」 隹に呼ばれた式は反射的に視線を切り替えた。 「食べながら余所見するな」 「にゃ」 「それ以前に人のものを勝手に横取りするな」 「おれ、ちゃんと聞いた、隹、何も言わなかった、だから隹が悪い」 「将来でぶ猫にでもなる気か」 「ふーーーーッッッ」 「それもそれで可愛いかもな」 隹は笑って適温になったホットコーヒーを飲み、仏頂面になった式は雑に切り分けたキッシュを口いっぱいに頬張り、はっとして、視線を戻した。 男は行き交う人々の群れに紛れてすでに消え失せていた。 「にゃ……」 もしかしたら、あのひと、おれとおんなじだった……? 追いかけたい気持ちもあったが、食べかけのごはんと、これからやってくるデザートへの未練もあったし。 いつになく機嫌のいい隹と優しい時間をもっといっしょに過ごしたくて、式は、テーブルから離れようとしなかった。 隹に見えないよう、俯いて、フードの下で猫又はちょっとだけ泣いた。

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