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汝の隣人を愛せよ-3

彼はすぐ目前で屹立したペニスを唇の狭間にくわえ込んだ。 浅く口にし、舌先をそよがせて先端に絡め、感触を確かめる。 仄かに伝わってくる特徴的な風味に更なる昂揚感を募らせる。 「……ン」 男の口内に囚われた式は鼻腔で少しつらそうに息をした。 あれよあれよという間の陥落。 どうかしている。 そんな疑問が湧く隙もなかった。 時折、男は上目遣いで気だるげにソファに座る式を見つめてきた。 獲物を貪る最中の肉食獣じみた眼差しで。 口元には不敵な笑みが。 「ずっとこうしたかった」と、裏筋にむしゃぶりつき、思わず腰を跳ね上げた式に秘め続けた欲望を打ち明ける。 「何にも思っていないような顔で、心の底では、女みたいに扱ってみたかった」 式は打ち震えた。 恐れや不安からではない。 むしろ尖らされた爪先で背筋を甘く引っ掻かれているような危うい心地にさせられて、体は狂的なまでの火照りを帯びた。 以前の恋人は女だった。 その前は男であり、最初に体を交わした相手も同性だった。 こんなにも強烈で凶暴な欲望が自分の内にある事を、式は、今日初めて知らされた。 「俺に乗ってみるか」 式は舌先の愛撫を中断させた男を改めて見下ろした。 「女みたいに跨って喘いでみろよ」 床に腰を下ろした男はソファに背中を預けて、言う。 「来い」 男は式に命じた。 心の奥底で式が切に願っていた言葉をいとも容易く口にした。 式はただ従うだけだった。 下肢に引っ掛かっていた服を脱ぎ、シャツを着たまま頑健な肉体に跨れば、男は張り詰めていた自分自身を切れ長な眼の前に曝した。 しなやかな体を紅潮させて式は腰を落としていく。 先端が触れると力を入れ、まず亀頭を襞の内に呑ませた。 徐々に、慎重に、深く繋げていく。 拡張される久々の感覚にどっと汗が吹き出した。 上を向いた胸の突起がシャツに擦れて、どうしようもなく、もどかしかった。 「……ッ」 途中まで己の中へ沈めた式は力強く張った肩に両手を突いた。 膝を遣って動き出す。 際どい摩擦に声が零れた。 勃起したペニスが相手の腹部に掠って、やはり、もどかしい。 ただもう絶頂を迎えたい一心で、すでに凶暴な欲望に平伏していた彼は己の熱源を鷲掴みにし、我を忘れて腰を振った。 「ッ……はぁ……ぁ……ぁ……」 捩れた表情は色めいた艶を含み、声は切なげに上擦った。 痛みは当然あるが快感の方が断然勝っている。 気持ちよくて堪らなかった。 「あ……!」 男は唐突に真下から式を突き上げた。 形のいい尻に五指を食い込ませ、容赦なく昂ぶりを打ちつけ、貫いた。 「お前もこうされたかったんだろ」 バランスを崩し、自分にもたれかかって息も絶え絶えに善がる式に囁く。 狭苦しい肉の狭間はなかなか魅力的であり、男は、どこまで堪能できるのか試したくなった。 水音の立つ荒々しい抜き挿しで侵攻の領域を無闇に広げていった。 「……もっと……」 式は男の動きに合わせて自らを扱き立てた。 弾かれた先走りの蜜が草むらに散る。 シャツの下に潜り込んできた男の片手は勃起していた乳首を探り当てるや否や、指と指で突起を挟み込んで捏ね繰り回し、上半身にも執拗な刺激を送ってきた。 「ん……っ……!!」 早々と達した式は先端から白濁の雫を大量に放った。 自分の胸に飛び散った、無駄死にの道を辿る欠片を見下ろして男は言う。 「相当な量だな。溜まってたのか? かなり濃い」 「……」 「まだ出し足りないみたいだしな」 射精の勢いで喘ぎ、ろくに言葉も紡げないでいる式の唇に男は突然口づけた。 「んん……ッ、ぁ……ふ」 激しく口腔を犯されて式は呻いた。 下唇を噛まれると瞼を小刻みに痙攣させ、獲物に喰らいつく飢えた肉食獣を彷彿とさせる舌遣いに恍惚となって、唾液をふんだんに下顎へと滴らせる。 不意に、男は式を抱えたままその場に立ち上がった。 式は反射的に男の頭に両腕を回してしがみつき、首をすぼめた。 濃厚な揺さぶりをかけられて全身が過敏に戦慄く。 自分の体重がかかってより深くに男の隆起が及び、容赦ない腰つきで抉られて、しとどに濡れた唇から甘く掠れた悲鳴を迸らせた。 「……ぁッ……ぁッ……も、だめ……ッ」 「なら、やめるか?」 「……ッ、嫌、やめないで……」 抱え込んだ式を虚脱寸前まで追い詰めると、男はその体勢のまま隣のベッドルームへ移動した。 遠慮ないやり方でダブルベッドへ彼を押し倒し、両足を掴んで大胆に左右へ開かせ、著しく速度を上げてピストンした。 「あぁぁあ……ッ」 式はシーツに幾重もの皺を刻ませて嬌声を零した。 内壁の肉に雄々しい隆起を猛然と打ちつけられ、溢れ出た先走りが飛沫となって双丘へと弾かれる。 白濁を浴びて淫らに湿る肌。 前のめりとなった男の腹部に屹立した自分のペニスが擦れると、無心に腰をくねらせ、自ら刺激が強くなるようにした。 「ぁ、また……ッ、きそ、う……」 「……ああ、何度だってイかせてやる」 男にしがみついた式は彼と共に絶頂を迎える。 満たされる事なく、すかさず次に飢える、とてつもなく貪欲な夜は始まったばかりだった。 寝返りを打つと指先に人肌が触れ、その些細な感触に式は目覚めた。 そして、昨晩の出来事が一瞬にして脳裏に蘇ると、寝起きのまどろみは速やかに遠退いていった。 男はすぐ隣で頬杖を突いて式を見下ろしていた。 「起きたか」 「……」 「お前みたいに綺麗な寝顔の奴は初めて見た」 式はどう返していいものかわからず、ただ男を見つめ返した。 男は笑っている。 昨日散々ちらつかせていた不敵な影は見当たらない、極自然な笑みだった。 「今日は休みだろ」 「……ああ」 「なら、ゆっくりできるな」 抱き締められた式は目を見開かせた。 「一日中、ここで過ごすか」 男は式の耳元でそう囁き、額や頬に短い口づけをいくつか落としていった。 くすぐったい感覚に式は身を捩じらせてため息をつく。 逞しい体の重みを全身で感じて、つい、呼吸を上擦らせた。 「そういえば名前を聞いてなかった」 「……式だ」 「そうか。俺は隹だ」 仰向けにされた式は隹のキスが昨日のやり方と違うのに気づき、思わず長い睫毛を震わせ、その頭を抱き締めた。 夢の続きのような現実に切なげなため息が洩れるばかりだった。

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