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汝の隣人を愛せよ-4

「シャワー、借してくれないか」 真夜中、隣人の男は二度のノックと共に突然訪れたかと思うと悪びれるでもなく式に言う。 隣人の名前は隹。 ここ最近、最も親しくしている相手。 彼とは専らこのパターンが続いている。 月と同じ色の長い髪をハーフアップで雑に縛り、夜中にしては冴え冴えと澄む青水晶の双眸を不敵に光らせた手ぶらの彼は、式の許しを得て部屋に上がるとバスルームへ直行。 すでに夕食を済ませてシャワーを浴び終えていた式は、さっさとベッドに潜り込む。 バスルームから出てきた隣人も、遅れて、同じベッドに入ってくる。 「……ん」 式の服の中に勝手に両手を突っ込んでは、肌の上をまさぐって、首筋に軽いキスを。 身を捩じらせて振り向けば唇にもキスを。 そのままセックスに突入する。 初めて体を重ねてから数週間が経過した。 体の相性はいい方だと思う。 というか、彼が抜群に巧いのだ。 しかし式は不満だった。 「シリアルごちそうさま」 出勤前の式と共に朝食をとると隹は自分の部屋へ速やかに戻る。 式は彼が座っていたソファを眺めてため息を一つ。 俺は彼がどんな仕事に就いているのか知らない。 出身も知らない。 ここ最近、彼について知ったことといえば、卵はスクランブルよりポーチドエッグの方が好みだということ。 食べるか、飲むか、セックスするか。 彼にとって俺は何なのだろう? こんなの、パートナーなんて呼べない、ただの手頃な……。 『何にも思っていないような顔で、心の底では、女みたいに扱ってみたかった』 式はそこで考えるのを放棄すると手早く後片付けを済ませて会社へ向かった。 自分が見た淫らな悪夢がきっかけでこの関係は始まったといっても過言ではなかった。 じゃあ、どうして、そんな悪夢を見たのか。 知らず知らず隣人に惹かれていたのだろうと、式は、思う。 『こうされたかったんだろ』 当たりだ。 通路で平然と女にキスしている隣人の隹を蔑むのと同時に、心の奥底では、彼にキスされている女を羨ましがった。 彼に抱かれるのは好きだ。 だけど、そればかりだと、不安を覚える。 もっと普通のことを知りたい。 そう、たとえば。 彼の部屋の内装だとか。 式はまだ一度も隹の部屋に招かれたことがなかった。 「飯、行かないか?」 ふらりと部屋にやってきた隹に誘われて式は近場のレストランへ食事に行った。 本当は部屋に行きたかったんだが……。 「どうした、スープの味付けが合わないか?」 「いや、そんなことはない」 「肉が硬いか?」 ボリュームあるハンバーガーに器用にかぶりつきながら、隹は、首を傾げる。 言ってみようか。 この後、部屋に行ってもいいか、って。 が、式がどうしようか逡巡している間に隹は付け合せのポテトを食べながら言うのだ。 「この後、寄るところがある。あんたは先に帰るといい」 なんだそれ……。 まぁ、仕方ないな。 用があるのなら。 「またシャワーを浴びにいくかもしれない」 ……またか。 嫌じゃないが、感じるが、興奮するが。 もっと理性持つ人間らしく語り合ってもいいと思うんだけどな、隹?

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