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Two end-2
隹は研究施設からの逃亡に成功して姿を眩ました。
極秘の研究であったため警察へ届け出るわけにはいかず、秘密裏に施設内部で追跡隊を編成し、研究所は実験体の行方を追った。
式も追跡隊に志願した。
罪悪感に囚われ、責任を感じ、彼を施設に戻す事が罪滅ぼしのように思えて。
しかしフラッシュバックのように、時には眠りの最中に、式はガラスケースに閉じ込められた過去の隹を脳裏に見ては苦悩した。
誰ももう彼を救えないのか。
そんな思いは、懸命な追跡の末やっと彼に辿り着き、共にいた仲間を皆殺しにされた事で霧散した。
広大な施設の片隅にある植物園で。
薔薇の花々を前にし、死した仲間に手向けるものは彼の死しかないと、式は思った。
ここに勤めて早三年が経つ。
知能や実技、心理テストなど様々な試験を受け、経歴を事細かにチェックされて十分な審議の末、式は研究所のバイオセーフティーレベル4における最重要施設の警備に採用された。
研究内容への詮索は禁じられていたが見回りの最中に自然とそれは耳に入ってきた。
人間兵器。
そんなものが果たして現実にありえるのだろうかと疑問を持った程度で、式は規則に忠実に日々の仕事をこなしていた。
幾重ものセキュリティが施された、極一部の研究員だけが行き来を可能とする最新設備が整った実験室に然して興味も抱かずに。
そして、ある日、式はそれを目撃した。
担架に厳重に肢体を拘束された少年が白衣の研究員に囲まれて通路を運ばれていくのを。
まだ幼く、青白い、小さな子供だった。
今現在、研究所の指揮系統トップは副所長である。
所長は隹に心臓を抉り抜かれて死亡し、そのポストは一ヶ月経過した今でも空席のままだった。
「一人で追いたいと?」
眼鏡をかけた物静かな副所長は式の意見を拝聴し終えるとゆっくり机の上で両手を組んだ。
「はい。もう、部下の死をこれ以上見たくはありません。覚悟はできています」
「覚悟というのは、自分自身の死の、という意味かね?」
下げられたブラインドの隙間から昼下がりの柔らかな日差しが滲んでいた。
壁の殆どが書棚に隠されていて浮遊する塵が透けて見える。
副所長同様にとても静かで薄暗い室内だった。
「それとも実験体を殺す?」
「……」
「あれは失敗作に等しいが、殺されては困る。連れ戻して、脳の一部を切り取り、こちらの言葉を利くよう忠実なマウスにして、研究を成就させよう。たくさんの犠牲者もそれで報われるはずだ」
個人の復讐よりも世界への貢献を優先したまえ、と副所長は続けた。
「優秀な君が我々の方針を聞き入れず暴走するとは考えにくいが、万が一に備えて、やはり同行者をつけようと思う」
その時、静寂の部屋に礼儀正しいノックの音が響いた。
副所長が入ってくるよう促すと重厚な扉が恭しく開かれる。
顔を覗かせたのは式の見知らぬ男だった。
「彼等と共に実験体を追ってもらおう」
予想もしていなかった副所長の指示に式は驚きを隠せなかった。
二人目となる女が部屋へ入り、扉が閉じられ、強張った沈黙が束の間室内を流れた。
「……彼等が同行者ですか」
「ああ、式。私は繭亡だ。よろしく」
眉目秀麗な顔立ちの男はそう自己紹介し、白い手を差し伸べてきた。
急な展開に式は戸惑うものの握手に応じる。
彼は次に連れを紹介した。
「セラ、彼女は私の妹だ」
「彼等は傭兵だ。その経歴は素晴らしい。戦火に紛れ逃亡中だった辺境の独裁者や世界規模のテロを起こした凶悪な武装グループの主犯を捕らえている」
傭兵の彼等と隹を追うのか。
俺以外の誰かがあいつを傷つけるというのか……。
隹には追跡チップが埋め込まれている。
場所は特定できるが、前回、式を除いた追跡隊が全滅したため、人員を向かわせるにも最大限の注意と覚悟と入念な計画が必要だった。
それに隹は速い。
ほんの少し目を離していたらそれまでと全く違う場所に移動している事もあり、追い着くのは至難の技だった。
前回、彼は接近していた追跡隊の前に自ら現れていた。
正確に言うならば式の前に。
『俺を追うな、式』
コートのフードを目深に被った彼の顔は見えやしなかった。
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