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Two end-3

隹が移動する度にこちらも車で後を追い、何度もモーテルやホテルを変え、しばらくはイタチごっこを繰り広げる羽目となった。 傭兵の兄妹はいつも共にいるわけではなかった。 親密になる必要はないので式も食事などは一人でとる事が多かった。 彼等は時折祖国の言葉で話をする時があった。 極寒の大国の言語だ。 式は特に耳をそばだてたつもりではなかったのだが、理解できた一つの単語が頭の中に引っ掛かっており、内心気になっていた。 死体。 矢鱈と出てくるその単語はどのようなニュアンスで使われているのだろうか。 一体、何の死体を指しているのだろう?  彼等をどこまで信用していいのか。 式は間接照明以外の明かりを消すと硬いベッドに横になった。 眠りはいつも遠い。 瞼を閉じれば仲間の最期をいつだって思い出す。 迷いもなくリーダーとして自分を敬い、友として慕ってくれた彼等を。 仲間を無駄死にさせたのは俺だ。 彼等のためにも俺は……。 『これがもっと美しくなるのか?』 彼の言葉が脳裏に不意に蘇り、式は、薄闇の中で目を開けた。 あの日の君はもうどこにもいない。 この手の先には心なき獣しか、いない。 そのはずだ。 それは水面下で交わされた取引だった。 「貴方は実験体に懐かれていた。これまでの襲撃で生き残ってきた。だから奴はまた現れるかもしれない」 貴方は実験体を誘き寄せるエサ。 「私達は実験体を殺して祖国に売る」 研究所は隹の殺害を傭兵兄妹に命じたという。 報酬は研究機密がふんだんに詰まった死体。 兄妹は法外な値段で祖国の軍事施設に売りつけるという。 貴重なプロセスはデータ保存されている。 過酷な実験を肉体に無理強いしたため死期はぐんと早まった。 それならば次の新兵器開発に早々と手をつけ、お古は余所へやってしまおうという数段らしい。 式には納得できない非情な決断だった。 果たして、それで死した犠牲者が報われるのだろうか。 生物災害により死亡したとして、遺族に引き渡されることなく、灰にされてしまった彼等が。 隹は何のためにこの世に生まれ出でたのか……。 「お優しい貴方はきっと反対する」 深夜、地階につくられたバーのカウンター。 セラはウォッカを煽る。 隣に座る式はグラスの中で琥珀に染まった氷を眺めていた。 「だから内密に契約を取り交わした。奴を誘き寄せる餌として貴方は必要不可欠だったから。同行を反対されては困るの」 「……死体を切り刻むというのか」 「何か不満が?」 低音のウッドベースとピアノの音色が店内に流れている。 客は少ない。 カウンターの端で主人がグラスを拭きつつ常連客らしき数人と談笑していた。 一気に酒を飲み干したセラは俯きがちでいる式の横顔を見やった。 「貴方はあいつに仲間を殺された。だから復讐の相手として奴を追っている」 「……」 「それなのに奴の死体が弄ばれるのは気に入らない。それは、復讐として矛盾していない?」  私には何を考えているのか理解できない。 「……俺は……」 式は氷を音立たせてウィスキーを飲んだ。 「俺は……三年間あそこにいた。ガラスの箱に閉じ込められた彼を見てきた。小さな子供だった彼は度重なる実験のせいで……瞳の色が変わり、髪は灰色になって……たった三年で、彼は……」 いつの間にか青年の姿になっていた。 「成長が加速する?」 「ああ、そうみたいだ……でも顔つきや眼差しは変わらない、以前と何も……無表情で言葉数も少なくて。だけど彼はいつも俺を待っていた……あの白い部屋で」 俺は何を言っているんだろう。 少し酒に酔ったか。 「薔薇の蕾に見惚れていた彼は清澄な天使みたいだった」 花が開いたらどんな風に笑ってくれるだろう。 俺は、あの日、そればかり考えていた。 彼が初めて見せてくれた微笑みに浮かれていた。 次の日に起こる悪夢への引き鉄を自ら引いたとも知らずに。 「人殺しの天使」 セラの言葉に式は眉根を寄せる。 紛うことなき真実に未だ捨てきれずにいる彼への儚い思いを揺さぶられた。 「罪深い天使。血に汚れた翼で空を飛ぶなんて」 「……君は何も知らないから、そんな風に言える」 「知らないし、知る必要もない」 空になったグラスの縁で指先を濡らしながらセラは言う。 「私達は金のために奴を殺す。ただ、それだけ。追う身に余計な感情は不要」 セラがどうして内密であるはずの話を自分に教えてくれたのか式にはわからなかった。 なぁ、隹。 俺達には、こんな出会いしか、なかったのかな。 もっと違うかたちで出会えていたら。 この世界で何よりも近い存在になれたような気がするんだ。

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