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Slavery-4
それは今日自分に押し入ってきたどの熱よりも熱く、硬く、屈強だった。
「あぅ……ッ、ひぁ、ぁ、ぁ……ッ」
片足を持ち上げられ、熱烈な抱擁じみた体勢で腰を固定された式は喘ぐ。
もう塞き止める余裕は皆無だった。
むしろ早く楽になりたい。
肉欲を出し尽くして枯らし、この男から自由になりたかった。
「あ、はぁ……んぅッ……ン」
獰猛な口づけに息が止まりそうになる。
涙目で見た捕食者の顔は嘲笑を浮かべるどころか。
どこか真摯な眼差しで式を見ていた。
「うぁ……あ」
最も奥にまで肉欲を突き入れられ、身も心も蝕む律動に式の意識は何度も飛びかけた。
「ダメだ、気を失うな、正気を保て」
隹は虚脱すら許さなかった。
その兆しを目敏く感じ取ると式の性器を扱き立て、快楽でもって現実に傲慢に繋ぎ止めた。
体勢を変えるため、隹は素早く配管に括りつけていた両手を自由にし、式をその場で仰向けに押し倒した。
「あぁぁあ……!」
式の傍らに両手を突いて隹は律動を再開する。
すでに吐き出されていた白濁の蜜が絡まって内壁が激しく鳴った。
もはや解されたそこは強靭な肉塊の行き来を苦としていない。
むしろ望むように離すまいと締めつけ、嬉々として打ち震えていた。
反り返った自分の性器が下腹部に先走りを垂れ流している。
無様な感触に式は咽び泣き、そして。
「ンンン……!」
「……ッ」
二度目の吐精を迎え、一層きつく締まった肉壷に隹も思う存分白濁を注いだ。
その日以来、凍てついた地下室から捕虜の姿は消えた。
隹少佐の部屋に繋がれて他の者達は滅多に目にしなくなった。
ただ、声だけは日夜問わず通路に時折聞こえてくる。
抑えようのない乱れた音色もし、欲求不満の兵達にとっては鼓膜を蝕む毒に値した。
「捕虜をどうしたのだ、隹」
厳しい顔つきで繭亡に問われると隹は鼻先で笑い、平然と答えた。
「手管を駆使して調教している」
隻眼の繭亡は嫌悪感を剥き出しにした片目で隹を睨み据えた。
「お前には吐き気が尽きない」
吐き捨てられた台詞を隹は悠然と頂戴し、咀嚼して、余裕ありげな笑みの裏へと飲み込んだ。
堅いベッドに横たわった式は剥げかけた壁紙を虚ろに眺めていた。
片手首は骨組みのパイプに手錠で繋がれて自由に身動きできずにいる。
部屋の主がいない時はいつもそうだった。
在中であれば心身を好き勝手に貪られる。
式の体から傷は消えたが下肢の深奥には無視できない跡が絶えず残されていた。
全身が深く犯された。
獰猛な快楽は理性を容易く壊し、盲目にした。
殺すべき敵幹部への殺意や憎しみが霞むまでに。
「どうして、こんな……」
現に今も式は不在の彼を待ち望んでいた。
昨夜、散々、暴かれたばかりの自分の肉欲が再び下肢に潜んでいるのを痛感し、歯痒くて、苦しくて、身悶えた。
こんな事、したくない。
したくないのに……。
頭は現実を嘆き拒みながらも、式の手はぎこちない動きで己の股座へと伸びた。
服越しに僅かな昂ぶりを撫でる。
紅潮した顔は色めいて、眼差しは欲情に曇って濡れて。
こんなにも容易く許してしまうなんて。
「……はぁ」
昨夜、飢えた口腔に執拗に囚われてむしゃぶりつかれた性器を外気へ取り出し、彼の手つきを思い出して、扱く。
舌先で捏ね繰り回されては啄ばまれた胸の突起をわざとシャツに擦らせるようにし、些細な刺激を生じさせる。
「ん……ぁ……」
もう片方の手が自由なら五指を口にくわえ込み、熱く勃ち上がった彼の性器の歯触りを脳裏に浮かべていただろう。
シーツを波打たせて式は身を捩じらせた。
ぎこちなかった動きは次第に躊躇を忘れた。
腰を反らせて脈打つ棹を握り締め、奔放的に己を苛んだ。
首筋を食みながら何度も突き上げられた昨夜の痴態が瞼の裏に蘇って、つい、声を洩らした。
「……隹……」
部屋の静寂に不毛な呼号が溶けていく。
滴る水音も、早まる呼吸も、鼓動も。
いとおしい光に直向きで高潔だった彼自身が死していく際に上げる断末魔も。
そうして式は一人達した。
全身を痙攣させての放埓な絶頂だった。
部屋の主が帰ってきたのは式の息がまだ落ち着いていない頃であり、彼はしどけなく乱れた姿の捕虜を見下ろした。
「俺が帰ってくるまで待てなかったのか」
雨が降っているのか。
髪や肩の辺りが濡れていた。
コートを脱いだ隹はベッドの端に腰を下ろして手錠の鍵を外す。
式は服装の乱れもそのままに陶然とした目つきで彼を見上げていた。
「見ての通り、自由にしたが」
「……」
「お前はどうしたい、式」
力に漲った手が片頬を覆う。
それだけで式は感じる。
抑え難い熱が速やかに体内へ行き渡って骨まで染み込むようだ。
自慰で錆びかけていた自制の枷が更に傷んだ。
隹は残滓が纏わりつく性器を見やった。
「俺の舌で綺麗にしてやろうか」
そう言って、ベッドに沈んでいた式の体をシーツ伝いに引き寄せた。
自分は床に膝を突く。
両足を左右に開かされた式は直後の振舞を予期して思わず目を瞑った。
「ン」
一息に昂ぶりを頬張られる。
即座に始まった激しい口淫に式は背筋を弓なりに反らし、鳴き声じみた甲高い声音を口角に滲ませた。
腕を伸ばして隹の後頭部にたどたどしく手を添える。
彼の舌遣いに合わせて腰を突き動かした。
そうすればもっとよくなると教え込まれたばかりだった。
もっとも敏感な部分にこれみよがしな舌の愛撫を受けて式は嬌声を迸らせた。
「お前は本当にセックスのし甲斐がある」
四つん這いにさせた見栄えのよい肢体に覆い被さり、肉の奥を突き上げながら隹は言う。
正面に回した手は式の濡れた性器を執拗に擽っていた。
前後を同時に攻められている捕虜は涙目だ。
掠れた喘ぎ声を上げつつ、シーツを強く握り締めていた。
「お前は体がイイと泣くんだな……ここが先走るのと同じように、目も、快楽で濡れる」
外で降り続く雨の音色が薄闇に染まった部屋に微かに届く中、あられもない肉欲が溶け合う音と、その囁きが交互した。
「欲の尽きない、罪な体だな、式」
「あ……あ……あ……隹……」
「壊れるまでそばにおいてやる。壊してでも。俺の手の届くところに」
捕虜よりも奴隷よりも深く残酷にその心身を貪ってやろう。
そうして俺の血肉の一つにして。
お前の全てを愛するように虐げてやる。
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