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ねこになりたい-5
今はまだ先の恐怖に翻弄されるより目の前の幸福に溺れていたい。
そもそも、このご時世、年の差婚だって珍しくない。
俺だけじゃない、割と誰もが抱えている不安だろう。
残されても、たくさんの思い出を用意して、笑っていられるようにしてやれたら。
「これ、なんて読むの」
ソファに横向きに寝そべっていた隹は、膝の上に新しい絵本を広げ、ラグの上に座り込んでいる式の背後に移動した。
「なんて意味?」
食事を済ませ、一先ず流しに食器を運んだ時点で後片付けは中断。
照明を落としたリビングではミニツリーがチカチカ点滅していた。
「覚えた」
隹のお古であるニットセーターをだぼっと着た式は挿絵が美しい絵本の続きに意識を戻そうとする。
色彩豊かなページに集中する切れ長な双眸に構ってもらいたくなって、青水晶の目に過ぎった、不敵な煌めき。
「にゃっ?」
耳元に息を吹きかけられて集中力を乱された式は隹を睨んだ。
「うるさいっ」
「何も言ってねぇよ」
「隹の息うるさい!」
「ふーーーっ」
「にゃっ、くすぐったい! ふぎゃ!」
黒猫耳をしつこくからかわれて式は笑った、首を窄めてその場で丸まる、隹にクッションを投げつけようとする、そうはさせまいと両手首をやんわり掴み、柔らかなラグに押さえつけて。
隹は式に口づけた。
まだ多少くすぐったさを引き摺って笑っていた唇にここぞとばかりに構った。
式は隹とのキスが好きだった。
気持ちよさそうに目を瞑って、体重をかけないよう自分に覆いかぶさる体に両手を添え、特別な交歓に身も心も委ねた。
「ン」
下唇を弱めに吸われると切なげに捩れた眉間。
じんわり温もる口内を舌先で愛撫されると「ン、ン、ン」と立て続けに声が洩れた。
セーターを捲り上げていく掌。
すべすべした脇腹を上下になぞられると、くすぐったいのと、体の芯に纏わりつく熱に骨身が疼いて太腿を震わせた。
「ん……っ……む……」
うっすら色づく上下の唇を割って、隹は、より深く口づけた。
薄目がちに微痙攣する瞼に見惚れながら頻りに水音を鳴らした。
肌を直になぞっていた手が緩い半ズボンの内側に滑り込んでいく。
下着の中にまで。
あどけない丸みを残す尻丘の感触を堪能し、セーターを限界まで捲り上げ、胸元に芽吹く突起の一つにもキスを注いだ。
「あ……隹……」
ぐ、とお尻の肉を強めに掴まれて。
びしょびしょになるくらいどちらの乳首も交互に貪られた。
「んんぅ……っ……そこ、くすぐったい……あ、っ……あぅ……」
あっという間にズボンと下着を一緒くたに脱がされて式はまっかになった。
「あ、ん……っ」
下半身を掬われ気味に、発熱しかけていた昂ぶりを口に含まれると、甘い戦慄が背筋を駆け抜けていった。
「ん、ん、ん、ん、ん……っ……っ」
ラグに後頭部を擦りつけ、満遍なく濡れ渡った唇に手の甲をくっつけて喘ぎ声を堪える式を上目遣いに窺いながら。
隹は彼のペニスをすっぽり咥え込んだ。
素直に芯を帯びて硬くなっていく熱源を舌尖で細やかに溺愛した。
「ふぅぅぅぅっ」
もどかしげに仰け反った式が迸らせた白濁を飲み干し、それでも尚強請って、二度目の吐精も口内で迎え入れた。
「はーーーっ……はーーーっ……隹の、ばか……おれ、からっぽになっちゃう……」
唇を拭った隹は思わず笑った。
暖房の効いたリビングにさらなる熱が追加されて肌身が露骨に汗ばんでいく。
「あっ……あっ……んっ……あっ……」
ラグ上にあぐらをかいた隹に向かい合わせで乗っかった式は声を抑えられないでいる。
仮膣に深々と沈んだ隹のペニスで突き上げられる。
規則的な律動、時に腰をやや持ち上げられて大きく穿たれたり、揺さぶられたり。
緩急をつけて念入りにピストンされたり。
「ぅぅぅ……っ……ぅ……ぅぅ……っ」
着衣を崩した程度の隹にセーター一枚の式はしがみついた。
「す、い……隹……っ……」
これ、今日も、何回もするのかな。
おれ、この一回だけでいい。
後は隹といっしょにただゴロゴロしてたい。
あ。
ツリー、やっぱりおうちの方がいい、チカチカ、きれい……。
「っ……!!」
動きが切り替えられ、仮膣奥を激しく小刻みに突かれて式は服越しに隹に爪を立てた。
そんな中でも小さな猫又は視界に馴染んだリビングをぼんやり眺めていた。
おいしかった夕食の匂いが残る、暖かい、好きな温もりに満たされた部屋を。
「式……」
隹に捨てられなかった。
きらわれなかった。
またいっしょにごはん食べて、眠って、ときどき耳ひっぱられるけど、キスもらえて、いっしょに暮らせる……。
「隹ぃ……」
急激に強まった締めつけに隹は険しげに眉根を寄せた。
そして、まさか、式が耳たぶに吸いついてくるとは思わず、予想外の返り討ちに僅かに動じながらもそのまま甘んじて。
無垢な幼子のように耳たぶにしゃぶりつく式の細腰を掴み直し、最奥まで突き立て、色褪せない欲望を解放しきった。
「んっっっ……むっ……っ」
「ッ……俺の耳噛み千切るなよ、式」
「っ……かみちぎる……んんんっ……こんないっぱい、もぉ、いらない……」
「……」
「あっ……ぅぅぅ……もぉいらない……!」
会社帰り、式を迎えに隣町の神社を訪れてみれば猫の姿になって仲睦まじく戯れるふたりを目撃し、隹は思った。
ねこになりたい。
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