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ソリッド・シチュエーション・ロマンス-7

「骨を折られたくらいで大袈裟だな、お前ら、何なら片目くらいオマケでもらってもいいくらいだ、濁ったクソ眼球の代わりに綺麗な義眼、こんな御大層なプレゼントがあるか? なぁ?」 旧棟の木造教室。 机やイスは後方にまとめられ、引き千切られたカーテンがかろうじてぶら下がっており、どことなく重たげで錆びついた空気が沈殿していた。 煤けた床には新鮮な血痕が飛び散っていた。 室内には隹と式の二人だけ。 たった今まで屯していた三年生のグループは一人残らず隹に殴られ、蹴られ、数人は骨折にまで至らしめられた挙句、奪われた自分達の小型ナイフで片目まで抉ってやろうかと凄まれ、こぞって退散していた。 「式」 式は自分自身のネクタイで目隠しされていた。 片頬が赤く腫れ、唇には血が滲んでいる。 肌蹴たシャツのボタンはいくつか弾け飛んでいた。 その場に隹が跪くと蹲っていた式はビクリと肩を震わせた。 「俺だ」 「……わかってる、さっき、すごい音がした」 「また機会があったら聞かせてやるよ、暴力の音色」 「……聞きたくない」 隹はきつく結ばれていたネクタイを強引にずらして式の頭から取り外した。 痛々しげに充血した切れ長な双眸。 まだ止まらずに全身を蝕んでいる微弱な震え。 「何された」 隹から顔を背けていた式は首を左右に振った。 「別に何も……」 「殴られただろ」 「……一回だけ」 「体は。蹴られたのか」 「……背中を、一回だけ」 隹は自分が羽織っていたパーカーを素早く脱ぐと震え続けている式の肩にかけ、滾滾と湧き出る殺意を腹底で持て余し、長く低い息を吐いた。 殴る蹴るに留まらず、彼らが及ぼうとしていた行為を察したプライドのリーダーは、その筋の人間に金を積んで全員の片目を抉りながら輪姦(まわ)してもらうか、なんて本気で考えた。 「どうしておれがここにいるって……?」 素直にパーカーに包まった式に尋ねられる。 「お前の愛しの同級生に聞かれた。お前の所在をな。五限が始まってすぐに解放してやったから授業に出てないのはおかしいと思った。で。俺を敵視してる三年の出来損ない共のことが脳裏を掠めた。で。溜まり場になってるここに来てみた」 隹は式の乱れていた髪を梳こうとした。 式は反射的にその手を振り払った。 「体の具合は。頭痛や吐き気はないか?」 不快感や失望の色を浮かべもせずに淡々と問いかけてきた隹に、式は、コクリと頷いた。 「少し休め」 「え……」 「俺は廊下にいる」 普段から敢えて視線をずらして避けている青水晶をぎこちなく窺ってみれば意外なくらい真摯な眼差しとぶつかった。 誰にも打ち明けないで胸の底に隠していたおれの気持ちに気づいたのは。 そんな風におれのことをずっと見ていたから? 立ち上がった隹をぼんやり見上げていた式は、彼が踵を返して教室を出ていく素振りを見せると、慌てて立ち上がった。 「ッ……」 生まれて初めて暴力を受けた体は痛みと恐怖に始終竦み、今、緊張感はやや緩和したものの、それまで硬直していた足元は急な歩行にふらついた。 「あ」 式は隹の懐に倒れ込んだ。 頑丈な体は共倒れになることもなく華奢な下級生を容易に受け止め、拠り所となり、支えとなった。 「あ……あの、隹……助けてくれてありがとう……」 隹にしがみついたまま式はプライドのリーダーに感謝の意を告げた。 「それなのに、おれ、手を振り払ったりして……ごめんなさ……」 屈み込んだ隹の影に呑まれた式。 再び唇を囚われた。

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