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ソリッド・シチュエーション・ロマンス-8
「ちゃんと息をしろ、式」
「……できないっ……」
「俺を見ろ」
「ッ……見たくない、隹なんか見たくない……!」
涙が止まらない式は頭上に迫る隹を睨みつけた。
「ああ、今やっと、目が合った」
二人はまだ旧棟の木造教室にいた。
下肢の制服を蔑ろにされて床に仰臥した式に覆いかぶさる隹。
危うげな獣性にまんまと乗っ取られたプライドのリーダーは獲物と見定めた下級生を嬉々として捕食していた。
「怒った顔もそそる」
純潔でしかなかったその身に貪欲な熱源を突き入れられ、猛々しい雄の象徴に仮膣を支配され、昼下がりの静寂に途切れることのない切なげな断末魔。
こんなの、さっきの連中と同 じだ。
体も心も虐げる暴力でしかない。
それなのに。
「あ……っ、ゃ、だ……っ」
抉じ開けられたばかりで窮屈な仮膣内を恐ろしく優しく蹂躙されて式はゾクリと背筋を粟立たせた。
貧弱な脹脛 がネイビーのハイソックスに覆われた両足の間に深々と割って入り、隹は、なだらかな線を描く制服を纏ったままの厚腰を緩々と動かす。
経験を重ねるに重ねた肉杭で内壁をじっくり擦り上げる。
後孔奥の秘められた性感帯を小刻みに的確に刺激する。
男女の性感帯を熟知している隹の早熟なスキルに、自分自身でさえ知り得ることのなかった性欲が暴かれていく。
「っ……こんなの、いや……いやだ……っ……っ、ん……む……っ」
好物を喰らう勢いで隹は嫌がる式に口づけた。
仮膣のみならず唇奥まで舌尖で貫く。
唾液を音立たせ、すっかり怖気づいている式の舌を巧みに誘い出し、器用に絡ませた。
「ん、ん、ん……っ」
息をしろと言いながら呼吸がままならなくなるキスを繰り返されて式は身悶える。
しとどに濡れていく口元。
唇を深く捕らわれたまま緩やかに突かれ、疼く傷口のひりついた痛みも禁断の恍惚にすげ替えられる。
式は成す術もなく制服シャツを腕捲りした隹に縋りついた。
まるでサイズの合わないパーカーを床に引き摺って、喉奥で息苦しそうに呻吟し、きつく目を閉じた。
「っ……っ……す、い……っ」
息継ぎのため、ほんの一瞬のつもりで顔を離した隹は覚束ない呼号に青水晶の眼を不敵に尖らせた。
「あ……!?」
華奢な式を抱え込むと速やかに体位移行、床に胡坐をかいて座り込んだ。
自分の体重がかかって、より奥までぐっさりと突き立てられたペニスに式は瞠目する。
うっすら赤みがかかった内腿をピクピクと痙攣させ、隹の肩に思い切り爪を立て、口内に溜まっていた唾液を溢れさせた。
「こんなに濡らして」
濡れそぼつ下顎を長い五指でなぞられた式は涙で滲む視界に隹の青水晶をおっかなびっくり捉えた。
「赤ん坊みたいだな、式」
「ッ……ちがっ……ぁぅっ……これ、むり、だ……もぉ、やめ……」
汗ばむ腰を掴まれて。
我が身を貫く肉杭を軸にしてゆっくり回し動かされた。
「あ、っ、ゃぁ……っ……ぁっ、っ、ぁっ……ゃ……」
「お前のナカ、俺のペニスで掻き回してる……」
「っ、っ、っ……ぁぁっ、ゃめっ……あ、ん……っんんん……っ」
「は……処女喪失、存外、堪能してるみたいだな」
口で貶めてペニスで内側を丁寧に念入りに解して、隹は、式の下顎を舐め上げた。
「は、ぁ、ぁ……っ……っ」
嫌だ、嫌なのに。
体が勝手に、暴走するみたいに、隹のものになっていく。
心を置き去りにされて涙が止まらない式の頬にも舌を這わせた隹。
「お前にとって一日、二日の出来事でも俺からしてみれば」
中途半端なところで台詞を切ると、丸みを残す尻丘をぐっと掴み、勢いをつけて仮膣奥を突き上げた。
式がどれだけ咽び泣こうと嫌がろうと止めなかった。
本能のままに求めて支配した。
「や……っ、っ、っ……!!」
嘆き続ける可哀想な下級生に絶頂の雫を惜し気もなく注ぎ込んだ。
きっかけなんてわからない。
ふとした一瞬、視線の先にあった切れ長な双眸に心臓を鷲掴みにされた。
投げ捨てられていたバタフライナイフを拾い上げた青白い指。
「地理総合と公民倫理の出席日数が危ない」
ブレザー、ネクタイ、校章、全て規則正しく身につけた繭亡は慣れた手つきで凶器の刃先を仕舞った。
「お前に合わせて計算してはいるが、二度の留年か、セラと同学年になってしまうな」
虚脱した式に制服を着せ、懐で寝かせていた隹は、色褪せた日が差す教室へやってきた繭亡を見上げた。
「式も俺に分けてくれるか」
繭亡の顔の裂傷は隹を庇ってできたものだった。
幼少時代、金銭目的ではなく、勝手に魅入られた余り常軌を逸して狂人と化した男に繭亡は誘拐されかけた。
その場にいたのは幼馴染みの隹だけ、その頃から自意識が強かった彼は自分一人で何とかしようと、人を呼ばずに無謀に立ち向かい、結果、振り翳された相手のナイフは咄嗟に前へ躍り出た繭亡の顔を片目諸共無残に傷つけた。
世界で一番愛していた顔を自ら傷つけてしまった男はその場で命を絶った。
「今までだってどんな獲物も分け合ってきただろう、隹」
繭亡は隹を呪った。
呪うように愛した。
奈落の底まで貶めたかった。
偽りの話で翻弄したかった。
誰にも渡したくなかった。
自分の片目にしたかった。
「式は駄目だ」
命の恩人である美しい幼馴染みに隹は事も無げに断言した。
家族も、妹のセラも、学園の誰もが知り得ることのない繭亡の愛情めいた狂気を一人延々と注がれている彼は、小さな寝息を立てて眠る式の髪を梳いた。
「ふぅん」
片手にナイフを携えた繭亡に見下ろされて隹は言う。
「俺は誰にも縛られない。たとえ自分を救ってくれた相手だろうと」
鳴呼。
そんなことを言う君が骨まで喰い尽くしたいくらい愛しくて堪らない、私の狂おしいダルジュロス。
「式」
夕方の中庭で行方不明になっていた同級生を見かけ、バスケの部活動中で保健室へ冷却スプレーと湿布を取りに行っていた補欠の和歌葉は回廊で足を止めた。
式は隹に背負われていた。
眠っているのか、その背中にすっかり身を預け、ぶかぶかのパーカーが細い肩から今にも滑り落ちそうになっていた。
付き合っている二人。
あんまりお似合いじゃない。
こんなこと思うの、きっと悪いことだ、だから誰にも言わない。
隹の代わりにおれが背負ってあげたいって思うのは、式が、大切な友達だからだ。
「ばいばい、式」
容赦のないトゲに頻りに胸を突っつかれているような心地にそっと眉根を寄せ、和歌葉は、中庭を横切っていく隹の背中でセピア色に染まった同級生にぽつりと一日の別れを告げた。
その日の放課後、図書館の受付当番だった式はカウンターへ到着するなり目を疑った。
「俺のクラスの図書委員が体調不良で代わりに来た」
他の図書委員や司書、多くの利用者がそわそわしている中、回転イスにぞんざいに腰かけて待ち構えていた隹を見、直ちに回れ右したくなった。
しかし真面目な性格の式は堪えた。
なるべくそばにいないよう、返却された本を棚に戻る役割を買って出、ブックワゴンを引いてカウンターを後にした。
「俺も手伝ってやる」
嫌だ、ついてきた、最悪だ……。
「とりあえず奥地から片づけていくか、番号的にこれが一番遠い」
「……またコクトーの本なのか?」
十字架ならぬ天窓から穏やかな日の光が差し込む古めかしい図書館の奥。
「俺が借りたんだ」
周囲に人気はなく、静まり返った本棚の谷間、両脇に両手を突いて逃げ場を塞いできた隹を式は伏し目がちに渋々見上げた。
「ここにお前を誘い込むためにな」
「まさか……先週も……?」
「まぁな。用意周到だろ」
顔の下半分を頑なに本で覆い隠している下級生に上級生は笑う。
「邪魔だ」
一瞬で本を奪い取られておざなりな防御は簡単に崩された。
「式」
「嫌だ」
「わがまま言うな」
「っ……どっちがわがまま言ってるんだ、あんなこともう嫌だっ、二度としなーー」
いつだって陰気くさい、天井裏に蝙蝠が巣食っていそうな薄暗い図書館の片隅で、瑞々しい頬を紅潮させて避難経路に迷う式に隹はキスをする。
誰にも横取りさせない、誰にも傷つけさせない。
これは俺だけの獲 物 。
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