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その死亡フラグはへし折ります/傭兵×学者/パニック映画風

■呪われし離島で逃げ惑い離れ離れになった生存者達。 「駄目だ、この道は危険過ぎる…!」 「あっちは崖だ、戻れば奴らが巣食ってる、この道しかない」 雇われ傭兵の隹、植物学者の式、生き残った二人。 「もしかしたら俺はこの島で死ぬかもしれない」 「二人で生きて帰るんじゃなかったのか」 「悔いだけは残したくないんだよ、式」 「おい、丸め込もうとするな、いくら命の恩人だからって、そんなことできるわけがない」 個人財団による私設研究所に所属する植物学者の式は、日々進化していく現代医療に貢献するため、最先端の技術と機器を用いて新薬の研究にひたすら身を費やしていた。 ある日研究所に舞い込んできた朗報。 絶滅したと言われていた貴重な種の生存報告。 「エターナル・ヴァーミリオン」というその花は全世界においても症例が極端に少ない「ある奇病」の特効薬を生み出す可能性を秘めている、と言われていた。 探索チームに志願した式は他の研究員、海賊対策として民間軍事会社から雇った警護スタッフと共に、花が目撃されたという遥か遠方にある離島を目指したのだが。 「あの島は呪われてる」 「行くのはやめておけ、五体満足で帰れるかどうか、下手したら命だって」 「死に急ぎたいのなら別だがな」 どれだけ高い金を積んでも船を出してくれる人間が見つからず、目的地となる離島から最も近いとされる港町でしばし足止めを喰らった。 「そもそも幻覚でも見たんじゃないのか、その遭難者は」 生温い潮風を浴びて全体的に錆びついたような町。 一人の夕食をレストランで終え、熱いシャワーが出るのに大層時間がかかるホテルへ戻ろうとしていた式を強引にバーに誘った彼は、瓶ビール片手に不敵に笑いながら言った。 「今だって病院に収容されてマトモな会話もできないそうだな」 病院、と言う際に男は自分の頭を指先で小突き、苦手な酒の代わりに甘ったるいフルーツジュースを飲んでいた式は眉根を寄せた。 天井で回り続けるシーリングファン。 裸電球の明かりの中でタバコの紫煙が揺らめいて消えていく。 「そんなことを言われたら元も子もない」 急に訪れた嵐。 出鱈目に流された末に転覆した漁船。 厚い雲間から時折滲む月明かりの元、荒れ狂う波から死に物狂いで逃れた遭難者は、辿り着いた島で夢のように美しい銀朱色の花に出迎えられたという……。 「銀朱色の花なんて珍しくもない」 「彼は花弁を握りしめていた、成分を調査した結果、この地上から永遠に失われたはずのエターナル・ヴァーミリオンだと判明した」 「成程、ちゃんと証拠はあるわけか、確かにそうじゃなきゃあここまで大袈裟に人員を駆り出さない、か」 傭兵の隹は笑った。 「原因不明、治癒不可能の病を治す薬に使えるとか。花を毟ってどれだけの金が懐に入ってくるんだろうな」 式は眼鏡越しに隹を睨んだ。 「金なんか関係ない、これは命の話だ」 単独行動が目立つ、よく上司からワンマンプレーを注意される式は普段滅多に感情を表に出さない人間だった。 端整な顔立ちながらも掴みどころがなく、研究所において親しくしている相手は皆無、一日誰とも話をしない日などざらにあった。 「誰かを傷つけて報酬を得るお前にとっては金が全てなんだろうがな。一緒にするな。それに肝心なのは花じゃなく根だ。偉そうに知ったかぶりするな」 いつになく冗舌になって堂々と中傷した式を隣にし、木造のカウンターでビールを悠然と飲み干した隹は言う。 「不感症のお人形みたいだと思っていたが、案外、人間らしい顔もできるんだな」 憤慨した式は自分の分の料金をカウンターに叩きつけて足早に店を後にした。 『お人形がまじっているみたいだが』 第一印象から気に喰わない男だった。 どうしてろくに知らない相手から揶揄めいた敵意を向けられなければいけないのか、ああ、面倒くさい……静謐なラボに帰りたい……もしくは……。 ホテルに到着する前に携帯が振動を始め、羽虫が飛び交う外灯の元、人足が疎らな路上で式は速やかに電話に出た。 「もしもし? うん、元気にしてるよ……うん……冒険? そんな大層なものじゃあ……君はちゃんと夜ご飯食べたかい。また嫌いなトマトを残しておじいちゃんおばあちゃんを困らせなかったかな」 電話してきた相手と和やかに会話を交わして「おやすみなさい」を言い合って通話を切った、次の瞬間。 「そういう優しい声も出せるんだな」 いきなり肩に腕を回されたかと思うと引き寄せられ、驚いて視線を向けた先には覚束ない明かりに鋭く煌めく青水晶があった。 「こどもがいるのか。結婚してるんだな、あんた」 「……不躾にも程がある、この任務が終わったら会社にクレームを入れる」 「それじゃあ俺もあんたの上司にクレームを入れてやる、簡単に財布をスられそうになる不用心さは如何なものか、ってな」 「え……?」 自分の肩を抱く隹の向こうに数人、慌ただしげに走り去っていく人影が二つ見え、式は顔を強張らせた。 隹の言う通り、不用心極まりなかった、最近町にやってきた余所者は物盗りの格好の餌食になりかけた。 そこへ隹が現れた。 黒の半袖シャツから伸びた見栄えのいい筋肉質の腕、迷彩ズボンに紐ブーツ、敏捷な身のこなしで追い越して行った長身の彼に鋭い眼差しを叩きつけられて、委縮した彼らは直ちに回れ右に至ったわけだ。 「指輪はしていない。ワケありってところか」 物盗りの被害を食い止めてくれた礼を伝えようとした式は直ちに仏頂面になる。 結局、自分を助けてくれた礼を伝えるタイミングを掴めないまま時間は過ぎて、やっと船を出してくれる漁師が見つかり、地図にも載っていない謎の離島へ探索チームと共に向かった式。 「エターナル・ヴァーミリオン」の前に彼らを出迎えたものがいた。 「一体、何だ、これは……」 原生林が息づく離島を苗床にした、世にもおぞましい、触手生物の群れ。 そう。 正にそこは呪われた、決して人間が踏み入ってはならない領域だった。 自分達が捕食対象となる餌場に自ら身を投げ出してしまった……。 逃げ惑い離れ離れになった探索チーム。 時に鼓膜に突き刺さる誰かの悲鳴。 虚しく連続する発砲音。 戦慄の増す静寂。 手足を毟り取られて迸る断末魔。 視界を真っ赤に染めた鮮血の飛沫。 「駄目だ、この道は危険過ぎる……!」 「あっちは崖だ、戻れば奴らが巣食ってる、この道しかない」 無情にも仲間がひとりひとり減っていく中、研ぎ澄まされた五感、生き死にを左右する判断力に長けた隹に生き残った面々は従った。 普段は単独行動を好む式もこの時ばかりはやむなく彼の後をついていった。 「苦し……ッ……!!」 触手に捕まって惨たらしく生餌になるところを、隹が狙い違わずサブマシンガンを撃ちまくったおかげで窒息紛いの拘束は解かれ、間一髪、地面に落下して助かった。 「歩けるか、それなら足を止めるな、先に進むぞ」 隹が拾ってくれた、片方のレンズにヒビが入った眼鏡をかけ、また礼を告げるタイミングを逃した式は動悸が止まらない胸をぎゅっと押さえた……。

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