196 / 198
その死亡フラグはへし折ります-3
理性が麻痺しそうになるほどの熱い口づけだった。
「っ……なに、やって……」
あっという間に上下の唇を満遍なく濡らした式は頬を上気させ、ためらいがちに隹を見上げた。
「今、あんたとセックスしたい」
聞き間違い……ではない。
今、確かに彼は言った、俺とセックスがしたいと……。
「そ、それこそ断る」
「もしかしたら俺はこの島で死ぬかもしれない」
「二人で生きて帰るんじゃなかったのか」
「悔いだけは残したくないんだよ、式」
「おい、丸め込もうとするな、いくら命の恩人だからって、そんなことできるわけがない」
断固として拒む式に隹は肩を竦めてみせた、そして。
「それじゃあ実力行使でいくしかないな」
その場で式を易々と押し倒すなり深いキスを強引に再開させた。
嫌というくらい見せつけられた身体能力を我が身に振るわれて式はブルリと戦慄した。
足場の悪い森の中を俊足で駆け抜け、襲い来る触手にナイフや弾丸を狙い違わず的確に放ち、食い止め、あれだけフルに動いていたというのに、まるで疲労を感じさせない力で捻じ伏せられる。
背骨を舐め上げられるような、えもいわれぬ意味深な感覚に体を貫かれて式は呻いた。
「ん……っ……っ」
随分と器用な舌が初心な舌を弄ぶ。
かぶりつく勢いで唇を完全に塞いで喉奥まで攻め嬲る。
「んん……っ」
舌先をしゃぶられて式は喉を詰まらせ、唾液を氾濫させ、息苦しそうに眉根を寄せた。
下肢に潜り込んできた利き手に緩やかに股間を揉みしだかれると、勝手に腰が浮いて、先走った下半身が不慣れな快感にあわや平伏しそうになった。
「い、や、だ……っ……」
「……まさかとは思うが、あんた、童貞か?」
「ッ……童貞で悪いか……」
「マジか……そういや、いくつなんだ、学者さん?」
「……二十七歳だ」
「俺とタメなのか」
隹の片手に両手を纏めて捕らわれている式は思いっきり顔を背けた。
「十九で姉を亡くして、それから研究に殊更没頭して……別に恋愛なんか興味なかった……悪かったな……」
耳まで真っ赤にして涙目でいる式に隹の欲望は止め処なく溢れ出す。
「念のために聞くが処女か?」
「ッ、男に処女もクソもあるか!!」
「Shhh ……あんまり大声出したら奴等に感知される」
「う……」
「童貞処女なら優しく扱わないとな」
真っ赤になった耳朶を甘噛みされ、服越しにゆっくりペニスを揉みしだかれて、ただただ恥ずかしい式は身悶えた。
「んっ……俺のこと……最初から馬鹿にしていたくせに……っ」
望んでもいない過剰にスリリングな秘め事に必死になって耐え、悔しがる式に隹は薄く笑う。
「気に入った相手はいじめたくなるタチでな」
「っ」
「最初に会ったときから、このきれいな顔に視線を束縛されて仕方なかった」
「や、やめ……うそつき……」
「嘘じゃない、式」
微かに震える耳朶ぎりぎりのところで囁きかけた。
「金が全て、港のバーで俺にそう言ったな、実はそうでもないんだ、惚れた相手とセックスする方が麻薬並みにどっぷりハマる」
服の内側に捻じ込まれた手がペニスを探り当て、直に愛撫を捧げられ、式は隹の真下で白い喉を反らした。
隹は汗と泥の香る紅潮した首筋を舐め上げ、必死になって声を我慢している唇を唇で覆い、上擦る吐息を呑み干して、彼の先端を擦り立てた。
いくら常識が通用しない呪われた領域だからって。
こんなの非常識にも程がある。
多くの仲間を失って、自分達の命だって危ういというのに。
生命に対する冒涜でしかない。
「……やっぱり、いけない、こんなこと……」
理性が浮上して嫌がる式を本能に忠実な隹は決して手放そうとしなかった。
濡れ始めた先端を掌で温めるようにじっくり撫で回し、過剰接触に疎い唇にやんわり歯を立て、緩々と咀嚼し、微熱の糸引く濃密なキスを繰り返した。
「ふ……ぅ……っ」
弱々しげに掠れた声色が薄暗い静寂を震わせる。
「……死者への冒涜か……」
堪えきれずに涙する式に隹は残酷な本能を囁いた。
「それでも俺は今ここにいるお前が欲しい」
ともだちにシェアしよう!