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その死亡フラグはへし折ります-4

ボサボサになっていたセピア色の髪を意外にも優しく梳く五指。 「はぁ……ッ」 色味の増した式の唇から火照った吐息が零れ落ちる度に青水晶の眼をスゥ、と細くして、隹は彼の額を撫でた。 「こんな状況で、よく、ここまで興奮できるな……ッ」 熱鉛じみた雄々しい隆起で体の奥底を抉じ開けられた式は涙ながらに真上に迫る隹を睨んだ。 迷彩ズボンを乱した程度の腰が欲深げに波打つ。 左右に押し開かれた式の両足が静止することなく揺らめいた。 「あ、く……ッ」 「こんな状況だからこそ興奮してるのかもしれない、な」 「不謹慎だぞッ……あ、あ、ぅ……っ……こんな奥まで来ないでくれ……」 「それは無理なお願いだ、式」 とてつもなく熱くて、とてつもなく……これは……ひょっとするとサイズ大なのでは……。 「もう少し縮めてくれ……」 「無理過ぎる」 熱塊に押し上げられた仮膣の内壁が火傷するような心地に呻吟し、ぐっと眉根を寄せた式に、隹は至近距離から堂々と見惚れた。 「もっと力を抜け」 「う……俺も無理だ……」 「あんたもよくなってくれ」 「っ……も、俺にさわるな……あ、あ、ぁ……っ」 間近に向かい合う二人の狭間に片手を差し入れた隹は挿入時の痛みにより萎えていた式のペニスを握りしめた。 ゆっくり上下に撫で擦る。 繋ぎ目の括れを指の輪で小刻みに擽る。 緩やかな律動に合わせて念入りな愛撫を施す。 「や……め……」 ゾクゾクとした甘い震えに下半身を怯ませて式は仰け反った。 「はぁ……」 隹の雄めくため息が鼓膜に流れ込んでくると、胸のずっと奥が疼くような痛みに成す術もなく焦燥した。 「いいか」 「よくな……っ……ぃ……っ……っ」 「俺はいい……ずっとお前とセックスしていたい」 「っ……奴らに嗅ぎつかれて……殺される……」 「あんたと繋がったまま死ねるのなら本望かもな」 「俺は嫌だっ……生きて……薬を……」 ああ、でも「エターナル・ヴァーミリオン」はどこにも見つからなかった……。 「うう……っ……みんなの死が無駄に……っ……ん……!」 「嘆くか、よがるか、どっちかにしろ」 式は薄目がちに隹を見上げた。 Tシャツは式の背中に敷いて半裸になった隹はずっと物欲しげに式ばかり見つめていた。 「もしも俺が死んだら忘れないでやってくれ」 隹の言葉に式はぐっと声を詰まらせた。 頑丈そうな肩にぎこちなく両腕を回し、何度も自分を助けてくれた男をそっと抱きしめた。 「忘れるわけがない、隹……」 ありがとう。 薄闇に今にも消え入りそうだった声は隹に届いたのか、どうか……。 そして。 「隹、絶対に手を離すな……!!」 「手を離せ、式、お前だけはこの島から逃げ出すんだ」 「俺は絶対にお前の手を離さない!!」 「式……」 「きっと、お前の帰りを待ち侘びてる……冷蔵庫のビールが……」 「はは……」 「おい、ありゃあ一体何だ……」 「いいから早く船を! できる限り全速力で島から離れてくれ!」 「なぁ、船長……温いやつでもいいからビール持ってないか……」 「おい、隹……全く……俺にも一口くれるか」 「口移しでいいならな」 そんなこんなで無事に帰還を果たした二人。 「式!!」 港町から研究所が所有するビジネスジェットで半日かけて最寄りの空港へ、到着口の向こうで待ち構えていた少女に抱き着かれた式は笑顔でハグを返した。 「トマト嫌いの女の子だな、はじめまして」 松葉杖を突いて式の後に続いた隹は珍しくにこやかに頬を緩めた。 「はじめまして! 二人とも傷だらけ、やっぱり冒険に出てたの?」 「ああ。俺は勇敢な彼に助けられて生き延びることができたんだ」 包帯やら絆創膏やらで全身応急処置されながらも飄々と言ってのけた隹に、式は、胸が詰まって首を左右に振ることしかできなかった。 研究所のスタッフに付き添われた少女はラウンジにいる式の両親を呼びに騒然たるフロアへ駆けていった。 搭乗を知らせるアナウンスが行き交う空港の片隅。 研究所関係者が慌ただしげに電話をかけたり書類片手に険しげな顔で話をしている中、式と隹は向かい合った。 「さっきの感謝の意は俺の台詞だ」 「そうか? でも奴らに追い詰められて崖から落ちそうになった俺を引っ張り上げてくれただろ」 「とんでもないよ、隹……お前がいなかったら俺は永遠に逆さ吊りのままだった」 「そういえばあんたにお土産がある、式」 式は首を傾げた。 「一緒に島へ同行した俺にお土産というのは……隹、それは……」 あちこち解れたり泥や血が付着している迷彩ズボンの後ろポケットから、隹は、それを取り出した。 「……エターナル・ヴァーミリオン……」 「やっぱり、これがそうか、間違ってなくて何よりだ」 「文献で見た写真と同じだ……どこでこれを」 『駄目だった』 立て続く仲間の死に参ってしまった式を安全な場所に残し、新たなる死を確認しにいった隹の視界に写り込んだのは、川岸に連なる銀朱色の花だった。 『肝心なのは花じゃなく根だ』 腹立たしげに吐き捨てられた式の台詞を覚えていた隹は、周囲への警戒を怠らず、一本、根っこから失敬した。 ポケットに無理矢理押し込まれて花弁は皺くちゃに、細かに枝分かれした根には土がついたままの、紛れもないエターナル・ヴァーミリオン。 式は慈しむように両手で受け取った。 「どうして黙っていた。その場で言ってくれたら、もっと採取できたのに」 「一つじゃ足りないか」 「いや、一本でも貴重なサンプルに値するが……あの病に苦しむ人々を救うには、もっと……」 「俺は目の前にいたあんたの命を大事にしたかった」 花のことを伝えれば危険も顧みずに泥濘の死地へ降り立って自ら寿命を早めるだろうと思った。 「俺の会社にクレームを入れるか」 式は首を左右に振った。 ろくに会話を交わしたことのなかった、共に新薬開発に心血を注いでいた彼らのことを思い出し、涙を流した。 「で、いつ奢ってくれる」 「え?」 「一杯、ご馳走してくれるんだろ」 負傷者であるのは一目瞭然ながらも離島へ行く前と変わらない表情で隹は式を見下ろした。 「今夜はどうだ」 式は泣きながら笑った。 片腕で抱き寄せられると、安心できる揺り籠にも等しい隹の懐に、人目も憚らずに身を委ねた……。 花と共に島は眠る。 次なる犠牲者の来訪を待ち望みながら。
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