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ヴァンパイアはあなた-2
「吸血鬼に捕虜にされるくらいなら舌を噛み切って死ぬ」
深い森の奥、陰惨な宴が毎夜開かれていそうな佇まいの城にて。
敵の懐に捕らわれた式は目の前に並んだ敵幹部三人に断言した。
凍てつく地下牢、鎖に繋がれ、ジャケットを奪われて半袖の黒シャツに迷彩ズボン、アーミーブーツ。
骨身を蝕む冷気になど構っていられない。
むしろ抑えきれない憎しみで血肉が沸き立つようだ。
「俺の家族は吸血鬼に殺された。お前等に魂を穢されるくらいなら死んだ方がいい」
そんな式の決意を踏み躙るように隹はとっておきの切り札を惜し気もなく披露してきた。
「大尉……お願いです、どうか助けて、私を見捨てないで……」
式は絶句した。
黒ずくめである敵の配下が地下室に連れてきた部隊の生き残りに言葉を失った。
「己の舌を噛み千切るのはお前の自由だ。だがその場合、あの女には野垂れ死ぬまで拷問を受けてもらう」
すぐに切り札を地下牢から退け、隹は、部下の女兵士の行方を気にしている式のセピア色の髪を鷲掴みにして強引にその視線を独占した。
「お前が死にさえしなければあの女を次から次に孕ませるのはやめておいてやる」
同胞の傲慢ぶりに慣れている美丈夫の繭亡は微苦笑した。
その隣でずっと沈黙している、鼻から下を黒布で覆い隠した長躯の阿羅々木は。
目の前で嘲笑う隹を堂々と睨めつけている式を意味深な眼差しで見つめていた……。
繭亡の部屋にて。
「その顔で処女だったとは。人間とは奥手なものだな」
寝台で仰向けに横たわった繭亡に跨らされた式。
屈辱の余り言い返すこともできない。
全裸にされた彼の尻孔に繭亡のペニスが深く深く沈んでいる。
肉膜が狭苦しく密集する最奥まで捻じ込まれて体底をグリグリと擦り上げられる。
「あ……!」
適度に鍛えられた式の腹筋が戦慄いた。
敏捷性に優れたしなやかな肢体が見る間に汗に濡れていく。
「はぁ……ッはぁ……ッ」
恥辱、敵意、苦痛、絶望、萎える要素しかない。
しかし先程から部屋の隅で焚かれている甘ったるい麝香の薫りに否応なしに性欲を掻き立てられる。
「ふ。どれだけ溜めていたんだ? こんなに硬くさせて」
普段、整然と着込んでいる軍服を脱ぎ、ネクタイを緩めてシャツを途中まで肌蹴させていた繭亡は薄く笑うと。
「あっっっ」
物狂おしいくらいに熱を孕んで欲深く反り返っていた式の肉茎に革手袋で触れてきた。
「ほら。こんなに滴らせて」
「あっあっ、いやだっ」
「……ほら、もうこんなに濡らした」
軽くしごかれただけで式は達してしまった。
繭亡が身につけていた革手袋とシャツを濃厚なる白濁で勢いよく汚した。
「あああ……ッはぁ……あ……ッ」
自分の真上で仮初の絶頂に喘ぎ乱れる式を見、繭亡は、黒革に纏わりついた彼の欠片を舌先で上品に拭った。
「是非とも味見してみたいものだな」
軽く噛んで革手袋を片手だけ外し、ひどく蒼白で女性じみた手を汗ばむ式の肌へ……。
「ッッ!」
黒く彩られた爪で胸の中心を浅く裂かれた。
痛みさえ快楽に塗り替えられて勃起したままの式の肉茎がビクビクのたうつ。
「泣かないで、人間? 私は式と遊べてとても愉しい」
隻眼の繭亡は深紫だった片目を鮮血の色で満たすや否や新鮮な傷口にキスした。
「いやッいやだ……ッやめ……ッ!」
幼子が駄々をこねるように嫌がる式の血を味わいながら彼の仮膣に沈めたペニスを淫らに動かす。
後ろ手で手錠をされた捕虜を愛してやるように巧みにたっぷり深々と突き上げた。
「いや……だ……」
式の掠れた声が夜の深淵を鳴らす……。
阿羅々木の部屋にて。
「……適当にしていろ」
まず最初に阿羅々木がしたことは式の手錠の開錠だった。
警戒心の強い猫のように部屋の隅に捕虜が駆け込めば、不快そうにするでもなくちらりと視線を送ったのみ、黒革張りの長椅子に座っておもむろに本を開いた。
「……毎夜あの二人の相手をしていたら身がもたないだろう」
何だろう。
この吸血鬼にだけ感じる「何か」がある。
憎しみや敵意とは違うもの。
……既視感?
「どうして顔を隠してる、傷でもあるのか?」
本のページを捲りかけていた阿羅々木は隅っこに立ったままの式を見て答えた。
「……牙を封じている」
「……え」
「……俺はむやみやたらに血を吸わん」
「俺とどこかで会ったことがあるか?」
二度目の問いかけに阿羅々木は答えなかった。
ただ静かな夜が人間と吸血鬼の間をゆっくりと流れていった……。
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