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ヴァンパイアはあなた-3

地下牢にて。 「大尉、大尉」 毛布一枚で凍える夜をしのいでいた式の元へやってきたのは捕らわれていたはずの女部下だった。 見張りの目を掻い潜って来た、今すぐ逃げようと、式の手錠を鍵で外した彼女は速やかに城の外へ上官を連れ出した。 深い森だった。 生命力豊かな古代樹が遥か頭上で血管のように無数に枝を張り巡らしている。 僅かな隙間から空が見える。 月が出ているようだ。 「大尉、早く」 先を行く部下に導かれて式は森の中を進む。 地下牢に彼女がやってきたときは驚くのと同時に希望を見出しもした。 だが今は。 何もかもうまく行き過ぎている。 見張りどころか城のどこにも見当たらなかった吸血鬼達。 この暗闇に足を掬われることなく囚われの身であったにも関わらず俊敏に突き進む部下。 式は足を止めた。 彼女はすぐに振り返った。 「どうやって鍵を見つけたんだ?」 立ち竦んだ部下の代わりに式に答えを告げたのは。 「俺が渡したんだよ」 どこからともなく彼女の真後ろへ不意に現れた隹だった。 「お前の言い方を使わせてもらう。この女の魂は穢れた」 式の目の前で隹は恋人のように彼女を後ろから抱きしめ、ジャケットの襟で隠れていた首筋を闇夜に露にした。 そこに浮かび上がるは二つの刻印。 「お前の部下は自ら穢れた。お前より潔く生きる道を選んだ。吸血鬼としてな」 吸血鬼化の証に軽く口づけしたかと思えば未練なく彼女から離れて「もう用済みだ。城へ戻れ」と隹は冷ややかに命じた。 無言で項垂れた式の隣を俯きがちに擦り抜けていく際に呟かれた彼女の言葉。 「許してください、大尉……」 風もない夜の深淵を吸血鬼の笑い声が震わせる。 「で、どうする、大尉。舌を噛み切って死ぬんだったか?」 深い森の懐で隹と式は向かい合った。 「救おうと思っていた相手に裏切られた気分はどんなだ? やっと希望に手が届いたかと思えば絶望の奈落へ突き落とされる、その気分はどんなだ」 項垂れていた式はゆっくり顔を上げて吸血鬼の青水晶なる双眸を見た。 「お前が自ずと知ればいい、クソ吸血鬼」 凛とした眼差しで見据えた次の瞬間、アーミーブーツにずっとしのばせていた小型ナイフをすかさず引き抜き、闇夜を切り裂くように二人の狭間に翳した。 「枷はなくなった。俺は自由になった。お前を殺してやる」 小さな刃でありながら微塵も怯まずに反撃に打って出た人間を吸血鬼は嬉々として迎え入れた。 闇夜の最中で決着はあっという間に。 「殺してやる、いつか、俺の手で」 式は喉元を捕らわれて大木に縫いつけられた。 ずるずると引き摺り上げられて両足が地面から離れ、隹に逆手に振るわれたナイフにより片頬は血塗れ、複数回に渡って地面に頭を叩きつけられ、唇や口内からも出血、息苦しい、頭痛、眩暈。 それでも眼下に迫る吸血鬼を淀みない眼差しで見据えた。 「俺がお前に絶望を教えてやる、隹」 血化粧が様になる捕虜に隹は笑いかける。 「愉しみだ、式」 隹の部屋にて。 「嫌だッ、クソッ、クソッタレ……ッ!」 切れ長な双眸に怒りを湛えて端整な唇で暴言を吐き散らす式を隹は嬉々として虐げていた。 ボロボロの服はひん剥いて流れていた血は一滴残さず頂戴した。 鮮血の色を青水晶に不吉に揺蕩わせ、捕虜の仮膣に滾りまくったペニスを何度も何度も突き挿した。 「お前の奥まで飼い慣らしてやる」 「この……ックソ吸血鬼がッ……殺すッいつか殺す……ッ!」 堂々と暴言を叩きつけてくる式に愉悦が止まらない隹は。 「あッッ!?」 滑らかで食指そそる首筋にかぶりついた。 「安心しろ、牙は埋めてない」 「や、やめ、やめろバカ」 「でもふとした拍子に、グサリ、いくかもな」 乱杭歯に伝わる命の脈動。 血の流れをひしひしと感じる。 隹は首筋の柔らかな感触を鋭い牙の切っ先で愉しみながら腰だけ激しく揺らした。 久方ぶりに欲望掻き立てる式の奥底をペニスで傲慢に暴き立てた。 「ぅあッッ」 首筋に触れる牙、その危う過ぎる感触に式はゾクリとしてしまう。 仮膣最奥を勢いよく連打されてつい頭を揺らせばツプ、と肌にめりこんできて。 「いっそのことお前も吸血鬼になるか」 「嫌だッッッ!!」 即答した式に心の底から笑って、そして、隹は怒涛の交わりに流れ込んだ。 思わず「殺してくれ」と哀願が出そうになるまでに荒い、狂気じみた、雄と雄の交尾だった。 「子宮があれば吸血鬼の子が孕めたのにな」 言い返そうとしたところで式の意識は途切れた。 震える唇からうわ言のようにその名を零して。 「……阿羅々木……」 「……目に余るぞ、隹」 式の悲鳴を夜通し壁越しに聞かされていた阿羅々木に言われて隹はそんざいに唇の片端だけ吊り上げてみせた。 「お前こそ目に余る吸血鬼だな、阿羅々木。俺達の誇りである牙を封じるなんて狂気の沙汰だ」 整然と軍服を着込んだ繭亡が柱にもたれてのんびり見守る中、隹と阿羅々木は真っ向から対峙した。 「何ならあの捕虜で復活させたらどうだ」 「……何だと」 「お前になら喜んで血を差し出すんじゃないのか」 「……どういう意味だ」 俺が知るかよ。 クソッタレが。 木漏れ日の中で。 降り積もった落ち葉のベッドに蹲っていた彼の元へ。 息を切らして駆け寄る幼いこども。 服のポケットに詰め込んでいた包帯や塗り薬を小さな手で取り出そうとし、バラバラと地面に落としてしまう。 泣きそうになっているこどもをそっと撫でる大きな手。 笑顔を取り戻したこども。 そこで式は目を覚ました。 「式」 夢から醒めれば。 真摯な眼差しで自分を見守る吸血鬼がそこにいた。

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