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ヴァンパイアはあなた-4

吸血鬼は飢えていた。 白昼、夜を恋しがり、辺境の地において眩しい日差しを閉ざす深い森の懐でその身を休めていた。 頭上高くに重なり合う枝葉の隙間から差した木漏れ日が頬に届く。 片手を翳せば五指が縁取られるように鈍く輝いて仄かな温もりを感じた。 ……闇夜の産物には贅沢な。 「どうしたの?」 すでに気配を察していたので吸血鬼は特に驚きもしなかった。 視線を向ければ鬱蒼と広がる茂みの向こうに一人のこどもが顔を覗かせていた。 病身の母親のため、森の奥深く、村人達が聖域としている禁断の領域にまで薬草をとりにきた人間のこどもであった。 「けが、してるの?」 ……まだ幼い。 何よりも血を好む吸血鬼だが幼きこどもの柔らかな首筋に牙を立てるのは良心が咎め、彼は、左右に首を振った。 大木の根元に背中を預け、木漏れ日の中、落ち葉のベッドに座り込んでいた吸血鬼。 少年はくるりと踵を返してその場を去って行った。 ……誰か村の人間を呼んでくるかもしれない。 ……好都合だ、この飢えを満たすことができる。 吸血鬼の予想は半分当たることとなった。 「だいじょうぶ?」 少年は一人で吸血鬼の元へ戻ってきた。 服のポケットに包帯や塗り薬を詰め込んで。 「おかあさんが、困っている人には優しくしなさいって、言ってた」 静かな森の中、息を切らして駆け寄ってきた少年は用意してきた包帯などを取り出そうとして、急いた手つきの余りバラバラと地面に落としてしまった。 「ごめんなさい」 責めるわけでもない吸血鬼に今にも泣き出しそうな顔で謝る。 吸血鬼は久方ぶりに微笑を浮かべた。 ……何て弱々しく、そして純粋で、穢れのない。 大抵の人間から敵意や憎しみを向けられてきた吸血鬼は少年の頭をそっと撫でた。 少年は一瞬、その澄んだ双眸を大きく見開かせ、そしてくすぐったそうに笑った。 そこへ。 姿の見えなくなった我が子を探して少年の両親が、居ても立ってもいられずに寝台から出てきた病身の妻を支えて我が子の名を呼ぶ夫が、森の聖域へやってきた。 切なる呼び声を聞いた瞬間。 吸血鬼の目は鮮血の色に瞬いた。
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