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ヴァンパイアはあなた-9

「何があった」 隹は問うた。 青水晶の眼は古から行動を共にしてきた同胞ですら知り得ることのなかった殺気を凶器さながらに振り翳していた。 「真実を教えた、それだけのことだ」 阿羅々木は答えた。 鼻から下を黒布で覆い隠して牙を封じている吸血鬼の傍らには捕虜の式がいた。 この城に捕らえてから初めて目にする虚ろな眼差しだった。 まるで世界の全てを拒絶しているかのような。 裸身にかけられたロングコートの下に覗く肌もひどく冷えて、寝台に力なく横たわり、身動き一つしない。 屍の如き式の指には今まで見受けられなかった指輪がはめられていた。 「式を犯したのか、阿羅々木?」 阿羅々木の部屋のドア口に立ち、殺気立つ隹と、式の髪を梳き続けている阿羅々木を悠然と傍観していた繭亡は首を傾げてみせた。 「珍しいな。気分転換に捕虜への虐待を行っていた私達をあれだけ蔑んでいたお前が同じ真似に至るとは」 凄味を奮うほどに艶やかに笑む美丈夫の隻眼吸血鬼に寡黙な吸血鬼は首を左右に振った。 「犯したんじゃない。俺は式を抱いた。式と愛し合った」 隹の殺気が増した。 素直に殺意を高めていく彼に繭亡は笑みが止まらず、阿羅々木は怯みもせず挑発されることもなく、眠れる捕虜に優しく触れていた。 「式も俺を求めた」 「それでこのザマか。俺がどれだけ肉体を踏み躙ろうと次の日にはクソ吸血鬼と詰ってきた奴がこうも無口な骸と化すか」 何が牙を封じた、だ。 抱いた後に自分が両親を殺した吸血鬼だと真実を告げたのか。 胸糞悪い。 こいつの精神を全壊にしておいて、一番性質が悪ぃじゃねぇか。 「お前、牙を立てて血を奪う代わりに式を壊しやがったな」 「こうなれば嘆くこともない」 「あ?」 「己の運命を呪うことも、悲しみを引き摺ることも。もうお前に心身を穢されることもない、隹」 「わからないぞ、阿羅々木? 新しい趣向に目覚めて安らかに眠る屍を犯すかもしれないぞ? 何せ隹という吸血鬼は底が知れないからな」 隹は深い虚無に巣食われた切れ長な双眸を改めて見た。 一度も俺を見ようとしない。 いつもなら嫌悪感を剥き出しにして睨みつけてくるっていうのにな。 ご立派な御託を並べて俺を詰ろうともしない。 えらく温度のなさそうな唇はただ浅い呼吸を繰り返すだけ。 哀れで無様で。 いっそ殺すか。 『俺がお前に絶望を教えてやる、隹』 隹は目を見開かせた。 夜の深淵で式が放った言葉が脳裏に蘇り、そして、つい笑った。 「捕虜の分際で勝ち逃げなんて許さねぇぞ」

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