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第4話
地下鉄を出て、アパートは公園を横切ってすぐにあった。
ノアールを拾ったのも、公園の中、バラ園を抜ける歩道の脇だった。
街灯が、細々と地面を照らす。
木々の合間を縫うように続く歩道を統夜は進む。人気の無い公園は、時折遠くからクラクションが響き聞こえる以外、静寂に飲まれていた。
ノアールを拾った後も、思わず子猫の入った段ボール箱を探してしまうほど、その出会いはショックな出来事だったようだ。
恐らくあるはずのない箱を探して、暗闇を見る。
思わず足を止めたのは、ノアールとの出会いの場所だった。
何もない闇の中、木立の下に何かが見えた。
「…?」
黒い。
子猫にしては大きい。
子供が、横たわっているような。
「!」
闇に目を凝らした統夜は息を飲んだ。
小柄な、誰かが横たわっている。
「え…ちょっと、君、大丈夫か!」
傍に駆け寄れば、それは長い黒髪に白い肌をした少女だった。
全身黒い衣服で身を包み、身を投げ出して木立の下に倒れていた。
肩を叩く。
意識もない。
眠っているのか、死んでいるのか、暗闇では判断できない。
長い睫毛は震えることもなく、閉じられた瞼を縁取っている。
頬は白い陶器か、大理石を思わせる。
統夜は、息を飲んで見つめた。
人形か。
美しく完成度の高い人形か、美しい死体。
首筋に触れると、嫌な冷たさを感じた。
死体の持つ、冷えた感触。
「…そんな…」
だが、妙だった。
何処を探しても脈は無い。肌は冷たく、白かった。
違和感。
統夜は何が妙なのかを考えた。
死んでいる。死体。違う。何かが違う。
柔らかなこの感触は、まるで。
………生きているような。
「!」
我に返り、鞄からスマートフォンを取り出す。救急、いや、警察に連絡を。
緊急ナンバーをタッチしようとして、何か冷たいものが手に触れたのを感じた。
「え…」
見れば、手首を何者かが掴んでいるようだった。
白いその指先。
伸びるその先には、細い腕が続く。
驚く間もなく、先程まで冷たく死んでいたその少女がゆっくりと身を起こす。
音も無く、黒い影に白い顔が浮かび上がっていた。
漆黒の双眸が、こちらを見つめていた。
形の良い小さく赤い唇が、近づく。
声を上げる間もなく、その赤い唇は開き、中に白い牙が覗く。
ああ、駄目だ。
ノアール、噛んでは駄目だ。
意識は途絶える瞬間、なぜか、そんなことを考えていた。
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