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第5話
子猫が鳴いている。
顔の上でタップを踏み、エサをせがんでいる。
「う…ん、ノアール。朝、かな?」
何か、怠い。身体が重いのは気のせいではない。
目を開ければ、小さな口を開けて小さな牙がこちらに向けられている。
小さな腹を掴んで、抱き上げる。同時にベッドの上で起き上がろうとして、目眩を覚えた。
「…変だな」
顔を押さえ、ゆっくりと起き上がる。手の中では遊んでいるものと勘違いしたノアールが指を齧っている。
辺りを見れば、まだ夜中で、衣服も朝に着替えたもののままだった。
「なん、で…」
眩しかったのは、サイドテーブルに置いた読書用のピンライトが点いていたからだった。
風が吹き抜ける。
窓も開け放してあった。カーテンが、揺れている。
「嘘だろ…」
記憶がない。
一体どうやって部屋に戻り、どうやって眠りについたのか。
重い体を持ち上げるように立ち上がると、窓辺へと近付く。凍えるような冷えた風が、窓から忍び込む。
足元ではノアールが転がるようにじゃれていた。
「目が覚めたのか」
突然、声が響いた。
「!」
驚いて見れば、黒い衣服を纏った少女が立っていた。
「君…は…」
朦朧としていた意識が、冷えた風によって醒まされていく。
闇の中で、倒れていた少女。
冷たい肌の感触が蘇る。
通報しようとした自分に、確か。
「君、確か…」
少女は、黒い双眸を真っ直ぐに統夜に向けたまま歩み寄ろうとした。
統夜の足元で、シャーッ、と鳴り、唸り声が聞こえた。
何の音だろうと統夜が見下ろすと、背中の毛を逆立て、威嚇の姿勢で背を丸めたノアールが足元に居た。
「ノアール」
そっと興奮したノアールを抱き上げると、目の前の少女に威嚇しているのがわかった。
「そいつをどかせ。…俺は黒猫が嫌いだ」
「俺…?君、男だったのか」
声も、多少ハスキーな声だったが確かに言われてみれば少年のものだった。
「なぜ、そいつにノアールなどと名付けた。よりにもよって、ノアール…」
「何か、気に入らないのかい」
「俺は黒猫が嫌いだ」
小さな唸り声を上げて、ノアールが飛びかかろうとする。
「駄目だ。ノアール」
「その名で呼ぶな」
「…君が、僕をここまで運んだのか?」
少年は、頷く。
「君は誰だ?」
「…俺はノアール。こんななりだが、もう数百年は生きている。…吸血鬼だ」
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