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第7話

 統夜の寝室から離れたキッチンで、静かに子猫のノアールはミルクとカリカリを食べていた。  息をつく間もなく食べ終わった黒い子猫は主人の姿を探した。だが、寝室へ続くドアは閉められ、代わりに置かれた籠を見つけると、身を丸くして眠りについた。  二人分の質量を載せたベッドが軋む。  全ての照明を消した室内に、青白く裸の肌が浮かび上がっていた。  ノアールと名乗った少年は俯き、統夜が何をするかを待っているようだった。 「傷を、見せて」  顕になった薄い胸に触れると、ノアールの肩が揺れる。 「大丈夫。僕はこれでも医者だ」  統夜の言葉を聞くなり、ノアールが訝しげな顔で見上げる。 「医者?」 「…半人前だけどね」  小さく笑うと、ケロイド状の胸の傷にそっと触れる。  まるで熱した十字架、焼鏝を押し付けられたような跡は、統夜の手とさほど変わらない大きさだった。 「痛くない…?痛みは、…ないのか」 「俺を癒やすつもりか?」 「…これは自分で?それとも…?」  よく見れば、ケロイドの中には文字が見えた。が、解読までは出来そうにない。 「…これは羊飼いの所有であるという証。俺を、殺そうとするやつが、つけた」  ノアールはケロイドを押さえて、面倒くさそうに呟いた。 「殺す?」 「狩人に追われてる」 「なぜ」 「トーヤ、俺はあんたを襲ったんだ。どういうことか、それくらい想像しろ」  ノアールは薄っすらと笑みを浮かべ、統夜の顔を見た。 「ノアール、どうしたら、君を助けられる」 「助ける?」 「この傷は、どうやって消すことができる?消してほしいんだろう?」  統夜の言葉に、ノアールは小さく笑った。  あどけなさに漂う、まるで娼婦の美しさ。 「話が早い。助けたいなら、俺を抱くんだ、トーヤ。それが契約だ」

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