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第12話
急患が多く、家路に着いたのは零時を回りそうな頃だった。
疲れか、昨夜の気怠さが尾を引いたのか、足取りも重く統夜は公園をゆっくりと歩いていた。
朝になって忽然と消えたノアールの事を探す理由もなく、ただ呆然とした消失感を感じていた。
本当にいたのか、確かに触れた感触も、疑問だったが、胸に残された傷跡が、ノアールが存在していた証拠だった。
ふと、闇の中に人の声を聞いたような気がして、統夜は立ち止まった。
「…ノアール?」
そんなはずはなかったが、気を引かれるまま耳を澄ませた。
祈りのような声が、低く響いていた。
それはまるで、死者を弔う神への言葉のような。
「!う…ッ!」
統夜は呻きを漏らした。
激痛が、胸に奔り、あまりの痛みに、統夜は胸を庇い身を折る。
額に汗が吹き出す。
心疾患は無い。むしろ、この痛みは火傷のそれに近い。
近くの木に寄りかかり、身動きも取れず闇を見た時、それは目に映った。
華奢な身体に伸し掛かる、黒い影。
僅かに輝きを放つ銀の髪と、仰け反る細い顎。黒い髪。
その顔には見覚えがあった。
「ノ…アール…!」
呼ぶが、呟き程度にしか声は出なかった。
ノアールに伸し掛かる影は、その胸から何か取り出すと、口元へ運び、頭上に挿頭すように持ち上げた。
銀に輝く、ロザリオだった。
男はますます低い声を上げ、祈りの様な言葉を紡いでいた。
ノアールは、意識がないのか抵抗もせずに横たわっていた。
統夜には意味がわからなかった。
男は、ノアールの衣服を裂き、白い胸へ指を這わせた。
何かを探すようにも見えた。
数秒後、男は銀に煌めくロザリオを、ノアールの胸元へ下ろした。
「ぐ…ッ…ぁああああああああッ」
統夜は悲鳴を上げていた。
灼熱の焼鏝を押し付けられたような、鋭い痛みが胸を刺した。
痛みの在処を探すように、統夜は胸を掻いた。
左胸に、煙が上がっていた。
シュウシュウと音を立てたのは己の胸だった。
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