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つづき~

 自分を受け入れて向き合えるようになる前、15歳の誕生日だったと思う。自分の存在をどうしていいのかわからなくて、でも俺は他のやつらとは違うという思いが体中を駆け巡っていた時期だ。誕生日ってうれしいもんだけど、全然嬉しくなかった。なんで普通に産んでくれなかったんだ!母ちゃん!と親にまで八つ当たりしたい気分だったね。思春期は色々と解決できない問題がつねにある(俺のは結構ヘビ一だし)  12月の寒い日だったのに俺は庭にいた。キ一ンと音がするような冷たい空気の中にいれば、すこし綺麗になるような気がしたんだ。頭もスッキリするんじゃないかって。  結果はただ寒いだけだったけど。  風邪引くから家に入りなさいって母ちゃんの声が聞こえた。さらに「こうちゃん来たわよ」が続いた。  コウタロウは俺の部屋に来てニコニコしていた。そのときはこの笑顔さえ疎ましかったから随分つっけんどんに「なんか用?」って  コウタロウは黙って俺に包みを差し出した。 「僕の一番好きな本なんだ。さとちゃん暇なときに読んでみてよ」 (そうだこの頃、さとちゃんって俺のこと呼んでいたな。いつから「さと」になったんだろ)  それは「ビ一ト・オブ・ハ一ト」というなんていうことのない文庫本だった。あまりに健全すぎる贈り物とコウタロウの笑顔に行き場のない思いがわきあがって、俺は机の上にそれを放った。パラパラするとかあらすじを読むことすらしなかった。 「さとちゃん、誕生日でしょ。僕何が欲しいか聞いてなかったし、最近あんまり遊んでなかったらわかんなかったんだ。だから僕の一番好きなものを持ってきた。読まなかったら、それはそれでいいけど」  俺は音楽室のことがあってからコウタロウを避けていた。純真無垢の権化みたいなコウタロウと俺じゃあまりに自分が惨めだったから。 「そのうち読むよ」  俺はまったくその気がなかったのに言った。 「さとちゃん」  コウタロウは僕の両手を握った。俺は先生が言った「顔」をしたのかと思ってとっさに手を引いたけど、コウタロウの力のほうが強かった。 「今日はさとちゃんの誕生日だ。さとちゃんがこの世に生まれた日だよ。どんなことがあっても、さとちゃんが僕を嫌いでもいいんだ。僕はさとちゃんが生まれてきてくれて嬉しいと思っている。 さとちゃんをこの世におくりだしてくれた神様に感謝。さとちゃんが嬉しくなくても僕が嬉しい。ありがとう」  コウタロウは僕の頭を優しく撫ぜて部屋を出て行った。  俺はそのあとオイオイ泣いた。なんで泣いているのかよくわからなかったけど、とにかく涙がドバドバでてきた。ひとしきり泣いたあと、夏の音楽室のことから随分久しぶりに心が穏やかになっていた。  涙と一緒に色んなものがでていったようだった。  そのとき俺は思った。コウタロウだけは絶対大事にしようって。あいつだけはどんなことをしても守る。コウタロウには笑っていて欲しい。あんなにかわいいコウタロウを汚しちゃいけない、俺と一緒にしちゃいけない  それなのに、俺はコウタロウと……自己嫌悪に押しつぶされそうなのはこういう理由があったってこと。  ふううう……。

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