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自覚

 それから俺は学校でもどこでも、いつでも苦悩中。自分の気持ちに気がついたのは、いいのか悪いのかなんだけど、どうしていいのかわからない。そもそも何をしたいのかわからないのよ、困ったことに。15歳の頃に戻っちゃったみたいだ、まるで子供みたい。  今まで普通にしていたメ一ルだって、用もないのにしたら変に思われるんじゃないか?かといって用事があるわけじゃないし。でもコウタロウと繋がっていたいし。  家に行ってもいいんだけど、そんなことしたら何をしでかすかわかんないし。とりあえず大学にいけば同じ空気が吸える。そんなササヤカなことで幸せだったりとか。 「はあぁぁ」  ひときわ大きなため息をつきながら、うどんをすする。うどんって腹持ち悪いのに、なんで昼になったら食べたくなるんだろ。おにぎりもつければよかったな、おにぎり買うか……うぉ!魔法のようにおにぎりが眼の前に出現した。おにぎりちゃん!君を待っていたよ! 「さと、うどんだけじゃお腹もたないでしょ」  おそるおそる見上げると、やっぱりニコニコしたコウタロウがいた。久しぶりの生コウタロウだ。といってもたかだが3日くらいだけど。  ええと、ええと何か言わなくちゃ、何か何か何か! 「コウタロウ、本、おもしろかった」  うわ~おもしろいって内容の本じゃないだろ!違うことを俺は言いたかったのに、なんでこう、大事なときに間抜けちゃんなんだろう。 「よかったよ。僕もさとからメ一ルきて、読み返してみた」 「スッキリしたよ。色々と」 「読むたびに色々な人に感情移入するんだ。わりとノヴァリ一が多かったけど、僕は断然フォ一ニ一が好き」  『好き』この言葉だけで俺の心臓はいきなり動き出した。普段意識していないところが動きだすとドキドキする。動悸とドキドキで息が苦しい。 「お、俺はノヴァリ一が好きだな」 「なんで?」  首を心持ちかたむけて俺を見るコウタロウ。以前はこれがカワイイと思っていたのに、今はとっても眩しいよ。 「フォ一ニ一のことを大事に思ってるから。ノヴァリ一が手を離した気持ちがよくわかるんだ」  だって俺もコウタロウに対してずっと思っていたもん。台無しにしちゃったのが悲しいけど。 「好きなのに、どうして離すことができるんだろう?僕は嫌だ」  コウタロウのまっすぐな視線は相変わらずカワイイものではなく、俺の知らない大人の顔だった。俺ってコウタロウの何をみてきたんだろ。 「フォ一ニ一っぽいな。コウタロウは」  コウタロウはちょっと目を大きくした。 「ノヴァリ一がなんでなかったことにしようって言ったか考えたか?フォーニーは二人が一緒にいるために工場で働くって言ったんだぞ。頭がよくて沢山本を読んでいるフォーニーが。 学歴もなくて臨月間近で男に捨てられて、ようやく生きてきた彼女にとって、フォ一ニ一は不可侵の存在だったんだよ。自分のところに堕ちてきちゃいけないって思って、フォ一ニ一が好きだから、手を離したんじゃないか!」 「さと……?」  なんだか感情が暴れすぎて止められなくなりそうだったから、おにぎりを引っつかんだ。 「コウタロウ、ありがとな」 うどんの器を下げ口に戻して、おにぎりを握ったまま俺は学食をあとにした。  そして今、おにぎり片手にトイレの個室に座っている。  よ~く考えたら、俺ノヴァリ一に似てる。フォ一ニ一は沢山本を読んでいて、頭のいい男なんだ。すれてもいないし、がさつでもない。不器用で優しい男なんだ。  ノヴァリ一は自分の境遇が不幸で、底辺に近いところで育ったし教養と無縁の世界で生きてきた。でも聡明なんだよ、ものすごく。  だからフォ一ニ一と一度寝たあとに、なかったことにしようって言うんだ。それはフォ一ニ一が地元の工場で働いて君と一緒にいるっていうから。そんな単純作業の仕事で一生を終える人ではない、私と一緒にいても、いいことがないって。そうして心で泣きながら「なかったこと」にするんだ。  俺ノヴァリ一みたいじゃない?ずっとコウタロウを汚しちゃいけないと思って一度あったことをなかったことにした。間違いだってことにしたくせに心の底ではコウタロウを求めている。  握りすぎて崩れそうになったおにぎり。捨てようとおもったけどコウタロウがくれたおにぎりだから、ぐすぐす泣きながら食べた。トイレでね。  なんか、最近俺、涙もろいよ。

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