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ふたたびジジイ松田
「さとし、俺お好み焼き食べたいんだ」
帰ろうとしていた俺の背後から松田の声。俺はふりむきもしないで言ってやった。
「ふ~ん。広島屋なら一人で行け」
「残念ながら俺、自分で広島風を焼きたい気分なの。ホットプレ一トは俺のうちにないから、途中のマックスバリューに寄って材料を仕入れて、さとしさんの家に行くことにしました」
「行くことにしましたって、きめてんじゃん」
「おう、ビ一ルは俺もちでいいからさ。一緒に食おうぜ」
そんな松田の言葉にも、鼻の奥がむずむずする。シャッキっとしろ俺!
「マヨネ一ズはぬいてくれ」
俺の精一杯。「わかったよ」と松田は俺の頭を後ろから抱きかかえながら横に並んで歩き出した。
俺達はしこたま酔っていた。ビ一ルはとっくになくなっていて、松田がテキ一ララビットをやろうといいだしたからだ。
男二人でやってどうするわけ?なんて言った俺も、強いのが飲みたかったら乗った。勝負するもんがないからジャンケンで(しょぼ)
勝ったら質問する権利を得る。敗者は絶対答えなくちゃいけない。お互いにくだらない質問をして本気で答えて。そのたびにテキ一ラが減っていく。
テキ一ラにトニックウォ一タ一をいれて、スコン!グラスを床に叩きつけるたびに、シュワっと炭酸がはじけて蓋にしているタオルがベチャベチャになって。それさえもおかしい。笑える。
俺も随分だけど、松田もヘロヘロだ。俺が負けてグラスをあおったとき、松田が勝者の質問をした。
「それで、村井がかわいいと思う理由はわかったか?」
俺、きっと一人で悶々としているのに疲れちゃってたんだ。ぶちまける相手として松田は最適な人材だ。
「もうコウタロウがかわいくみえないんだ」
「へえ、まじ?」
「かわりに綺麗に見える」
松田は一瞬間をおいて、腹をかかえて笑い出した。床に転がっている。
「お前さ、そこまで笑うことはないんじゃない?俺今未処理事項でパンパンなのに!」
「てことはだ、ようやくわかってことだな」
床に寝そべったまま松田が俺をみあげて言う。この体勢で相手がコウタロウだったら、襲っちゃうかも。でも相手が松田じゃそんな気は起きないよ。
「そうか、そうか。まずは第一歩だ」
カカカと黄門様みたいに笑う松田を見て、なんだか全部ぶちまけたくなって、ぶちまけた。
20分くらいの俺の独白。
「さとし、面白いネタを色々もってるな」
「そうかな」
「おう。そうだよ。それでだ、まあ、そのお前にとっての間違いがどういう状況であったかわからずじまいってことだな」
「うん」
「それに対して今思うことを30語以内でどうぞ」
「覚えてなくて、勿体無い。心底勿体無い」
松田はそこで、またもや腹をかかえて笑う。目の前で狂ったように笑う人間をみていたら、ここは楽しい空間なんじゃないかって錯覚するだろ?おまけにテキ一ラ飲んでるしさ。俺もおかしくなってゲラゲラ笑い出した
「なんで俺も今更気がついたのかわけわかんね~~のよ。窒息しそうになって初めて空気の大事さがわかるっていうような感じ?」
「あのさ、さとし。それって、村井がいないと生きていけないっていってるようなもんだぜ。本人に言っちゃダメだぞ、そんなこと」
「だよな~だよね。最近おかしいんだ俺。涙もろいしさ。コウタロウのことばっか考えてる」
「俺のことは?」
今度は盛大に俺が笑う番だ。
「ありえね~~お前はありえね~~」
ゲラゲラ笑う松田。つられて笑う俺。
「なんか、乙女ちゃんだな~さとし。ちょっとかわいいぞ」
「うわ~やめてくれよ。お前同じ男にかわいいはないって断言したじゃんか」
「うげ、そうだった。いかんな~さとしの魅力にやられた?俺」
「魔性の三白眼ですから」
「お前自分で言ってむなしくないかぁ?」
「む、むなしい……かも」
松田は狂ったようにゲラゲラ笑い、俺はそこから記憶がない。
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