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またもや朝チュン
【 チュン チュン チュン 】
今朝もかわいく雀が鳴いている。背中が冷たくて痛い……気持ち悪い。
蒸し暑い!まじ背中痛いんですけど!うわっ!あったまイテエ……。目を開けると、俺はパンツ一丁で床に転がっていた。
あ、松田と飲んで……たよな。あいつ相手なら素っ裸でも問題ないだろう。今問題なのはこの頭痛と、気持ち悪い胃袋だ。ドッカンドッカンと腹の中で踊っているみたい。こりゃ、たぶん吐く。間違いなく吐く。
部屋くっせ~~床濡れてるし。ドロンと胃がでんぐり返しをしたので、たまらずトイレに駆け込んだ。
すこしスッキリして部屋に戻る。松田は床に膝をついてベッドに突伏している。お前、そりゃ、苦しかろう。笑いの発作が復活してゲラゲラ笑いながら窓を開けた。明け方のススキノ裏通りみたいな匂いだよ、俺の部屋。
「さみい」
松田がモゴモゴ言った。しょうがないからベッドに引っ張り上げてタオルケットをかけてやった。「さとしは俺の天使ちゃんだ」松田はそういってヘラヘラ笑いながらまた寝入った。
俺は昨晩のお好み焼きの残骸を片付けて、床を拭いたけど途中気持ち悪くなって2回吐いた。何か食べたほうがいいんだろうけど、何もなかったから、ベッドに転がる。
なんとなく松田と並んで寝るのはコウタロウを裏切る気がして、松田と頭の位置を反対にして横になった。松田が足動かしたら確実に顔面に入るな、それはそれで面白いかもなんてクスクスしてたら寝ちゃったみたい。
いいにおいがする……いいにおいがする。
目がさめたら、部屋はオレンジ色だった。さっきまで朝だった気がするんですけど?
たっぷり寝たせいで酒は抜けていた。ベッドの上に松田はいない。味噌汁の匂いかな?飲んだ翌日の朝は味噌汁だね、って朝じゃないけど。こんどはちゃんとイタダキマスするよ、松田君!
部屋のドアをあけたら小さいキッチンの前にコウタロウが立っていた。俺は予期していなかったので、本当にびっくりした。「うわっ」って言っちゃったよ。コウタロウにむかって。
「おはよう、といってももう6時だけどね」
「え、まじで?てか松田は?」
「さっき急いで帰った。彼女と約束してたらしいよ。僕がきたら仲良くベッドで寝てたね」
「仲良くってわけじゃないよ」
「松田に用事があったんだけど、学校にいないし、そしたらさとも来てないっていうから、二人で飲んだんだろうなって」
「朝ちょっと起きたけど、しんどくてまた寝た」
コウタロウは俺の顔をみてクスクス笑う。
「なんだよ、何がおかしいんだよ」
「さと、鏡みてきなよ。すっごい頭だよ」
ユニットバスの洗面台にいってみたら鏡の中に爆発ヘア一の俺がいた。自分で笑えるくらいの「すっごい頭」
コウタロウは松田になんの用だったのかな。
顔をバシャバシャ洗って、なんとなくグズグズしていた。コウタロウがいるのにシャワ一浴びるのって、なんか変じゃない?緊張しない?前はそんなことお構えなしだったのに、逆に変に思われない?でもこのTシャツとパンツぐらい取り替えたほうがよくなくない?
部屋に戻ってTシャツとパンツを取り替えることにした。新しいパンツをはいてTシャツをかぶったところにコウタロウが入ってきた。
「なんか食べたほうがいいよ。ゴメン!着替えてた?」
俺はTシャツをかぶって胸と腹を晒した状態でコウタロウと向き合っている。よかったよ、俺の頭がTシャツの中で。顔は真っ赤だったし、ほぼパンツ一丁の姿は恥ずかしかったから。
何度もフロに入った仲だし、過ちを犯した関係だけど、コウタロウに肌を見られるのが猛烈に恥ずかしかった。松田のいう乙女ちゃんが発動したらしい。
コウタロウに背中をむけてTシャツを無事身に着けてほっと一息。テーブルの上には湯気がモウモウしているおかゆがのっている。病人食みたいだ、これ。
しかし!おかゆを食べてびっくりした!これは風邪の時に食うおかゆじゃないぞ!
「コウタロウ、これめっちゃうまい!おかゆなのにおかゆじゃないみたいだ。うお~鶏肉もはいってる。葱が香ばしい。これうまい!!」
コウタロウは俺をみて笑った。よかったよ、あの無表情とか大人顔だとどうしていいかわからなくなるし。
「気に入った?このおかゆはお米から炊いたんだよ。中華粥だから美味しいでしょ」
米から炊くおかゆってなに?おかゆの作り方を知らないから、コウタロウの説明がイマイチわかんないけど、かあちゃんの作った味もそっけもないシロモノとは全然違う。
「コウタロウに餌付けされてるみたいだな、俺」
実際のところ餌付けされたい。毎日コウタロウのご飯が食べたい。でもそんなこといったらドンビキされるだろうね。
「僕の作ったご飯すき?」
ボクノコトスキ?っていってくれないかな。うん、俺にはそう聞こえた(ことにする)
しばし幸せをかみ締める。恋をすると人間愚かになるっていうけど、本当だね。だからコウタロウの質問に答えた。
「スキ、スキ、大好き」
熱烈にほめられたせいか、コウタロウが照れたように微笑んだ。花が咲いたような、優しい笑み。やっぱり、手を離すべきなんだろうな(まだ握られてもいないけど)コウタロウは綺麗すぎるよ。
そんなコウタロウに抱かれたいと思う俺って、なんだか俗っぽいね。おかゆはおいしかったけど、ちょっと寂しくなった。
おなかが満たされたらまた眠くなる……寝ちゃおうかな。
「ほら、さと、風邪引くから」
身体が軽くなって、柔らかいところに着地した。ベッドだ、フカフカで気持ちいいからそのまま寝ちゃおう。
誰かが優しく頭を撫ぜてくれるから安心して身体が緩んだ。半ば眠りにおちたとき、頭を撫ぜてくれていた手がいなくなった。
なんだかものすごく悲しくなって「いかないで、いかないで」って頼んだ。コウタロウがいっちゃうんだ、どっかにいっちゃうんだ。フォ一ニ一みたいに。
だから泣きながらお願いした。『コウタロウ、いかないで。いかないで』
一生懸命お願いしたけどあたたかい手の感触が戻ってこなかったから一番安全な夢の中に逃げ込む。
コウタロウがこの時とんでもない決心をしたことを俺は後で知ることになる。
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