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さとし、走る!!!

【 ジャンジャンバラバラ♪ ジャンジャンバラバラ♪ 】  パチンコ屋の音を聞きながら走った。『反対側の店に行くといいよ』クスクス笑うコウタロウの声を思い出す。眼鏡に何かされてたらどうしよう。まさかコウタロウの片思いって眼鏡?  足が止まった。  俺なんのために走ってんだろう。コウタロウの部屋に行ってどうする?二人が愛を囁きあってたら、俺はただの邪魔者じゃないか。  ポタリとひたいから汗が落ちる。  いや、俺は邪魔者じゃない。俺まだコウタロウに何も言っていないし、眼鏡との関係もはっきりしていない。何より松田が心配しているくらいだから仲良く手を繋いでってことではないはず。それに、俺を傷つけた人間に惚れるはずがない。コウタロウに限ってそれは絶対にない!  俺は再び走りだした。  コウタロウのアパ一トについてドアをガンガン叩く。不測の事態だった場合、中の人間がドアを素直に開けてくれるはずがないと思いなおしてノブを回したら、鍵はかかっていなかった。  台所をぬけて部屋に入ると、ベッドに丸くなっているコウタロウと上半身裸の眼鏡男子がベットの横に立っていた。  完全に血が昇ったおれは、眼鏡男子につかみかかった。胸倉をつかもうとしたけど、服を着ていないから掴むところがなくて首を握る形になってしまう。じかに触れた肌にものすごい嫌悪感。そのまま力まかせに床に振り落とすと眼鏡男子は床に尻もちをついた。  コウタロウの青い顔……俺は半分泣きながらコウタロウ!って叫んで両手で顔を包んだ。 「さとちゃん。僕は大丈夫だから」  さとちゃんって呼ばれて本格的に俺は泣き出した。色々な感情がわきあがってきてどうしようもできない。怒っているのか、悲しいのか、情けないのか、わけがわからない。  この現状も理解できないし、コウタロウには聞きたいことばっかりだし。 「コウタロウ、コウタロウ」  ただただ名前を呼ぶしかできなかった。 「ほんとサトシ、お前は純情だな。まじで惚れそうだわ」  眼鏡男子の声に鳥肌がたつ。気持ち悪い。お前は床に転がったまま黙ってろ! 「うるせえ、なんで俺に絡むんだよ!ユウキとやっておけ、てかお前出て行け!」 「でていきたいのは山々なんだけど、俺服がないの」 「服がないだと?コウタロウの前で服なんか脱ぎやがって!ここくるとき着てただろうが!」 「この美人さんが俺のシャツに吐いたんだよ。俺被害者なんだけど」  吐いた?なんで? 「ちょっとコウタロウ、具合悪いのか?病院いくか?」  自嘲的な笑みを浮かべたコウタロウなんかはじめて見た。 「実験したんだよ。結果は僕の予想の上をいっちゃって」 「はあ?なにが実験なんだよ。本当に大丈夫なのか?」  コウタロウは挑むような目で俺をまっすぐ見た。 「好きでもないヤツと寝ることができるのか実験したんだ」  俺の中でプツンと糸が切れた。コウタロウを心配して散々喚き散らして泣いた自分がバカみたい。色んなことがもう……どうでもいい。  俺は買ってきたばかりの長Tを眼鏡男子に思いきり投げつけた。 「これ着て帰れ!!!」  俺はそのままコウタロウの家を出た。  駅まで向かう途中何回も松田から電話がきたけど、出なかった。どうしていいのかわからなかったし、今知っている人間と話したら泣き崩れそうだった。  地下鉄に乗って自分の家に向かう間、何度もコウタロウの声が頭の中でガンガン響く。 『好きでもないヤツと寝ることができるのか実験したんだ』  自分の部屋の玄関に入り、後ろ手でドアを閉める。ドアにもたれてズルズルと座り込んだ。靴を脱ぐ気力も、部屋までいく力も、何も残っていなかった。  俺はカラッポだった。

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