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第44話

 クールな部長は緩めた表情を 元の凛々しい顔に戻しつつ、オレの 汚れた身体を綺麗にしてくれた。 意外と優しい……。 「で、さっきの続き。 俺を部長と呼ぶのはやめろ」  そう言われてもなんて呼べばいいんだよ。 「ほら、名前で呼んでみ?」  名前っていきなり? 目の前の顔を改めて見つめると オレの顔はカーっと熱を帯びて真っ赤になった。 「顔真っ赤になっているぞ、 思い出したのか?」  そう言ってオレの顔を覗き込み 意地悪そうに笑う。 ううっ……どうしよう。 これは呼ばないと許してもらえそうにない。 「せ……ゃさん」  俺はか細い声で口にしてみるが 部長はなに?と耳を傾けてくる。 俺はますます真っ赤になりながら もう一度声を振り絞った。 「せ……いやさん」  なんとか口にしてみるけど 目の前の顔は納得していない。 「さんはいらないな、もう一回」  この人は……。 「せ……いや」  もうこれが限界。 自分の顔が熱を持ちすぎて どうにかなりそう。 おかげで部長の顔を全く見れない。 「聖夜」  やけくそで言い直すと ふわっとオレの頭を撫でる大きな手。 オレは思わず目を開けて顔を見れば、 見たことない優しい表情で笑う部長に ドキドキが止まらない。 「一之瀬……」  やっぱりこの人はズルい。 人を名前で呼ばせておいて自分は 苗字とかないよ本当。それでも 部長の顔が徐々に近づいてくる気配に オレは言葉にすることなく無意識に目を閉じた。  しかし――本当にバッドタイミング。 穴が入ったら入りたいほどの大きな音で オレのお腹がグーっと鳴った。 あと数ミリの距離に近づいていた 部長の綺麗な顔は離れ、 しょうがねーなと溜息を吐いて 何も言わずキッチンに向かった。  あれもしかして何か作ってくれるの? オレはちょっと期待しながら重たい身体を 起こしてようやく服を着た。

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