26 / 68

第26話

目の前の顔はみるみるうちに 涙でぐしゃぐしゃになり、 俺は慌てて声をかけた。 「な、泣くなよ……」 俺の言葉にますます 声をあげた一之瀬。 さすがの俺も困り果て、 頭を撫でようと 伸ばした手は一瞬にして 払いのけられた。 え!? あまりの事にポカンと していると、泣いてたはずの 一之瀬は、涙を流したまま 俺を鋭い目つきで睨みつけ、 「なんなんですか!? 俺をからかって 楽しんでるんですかっ?」 「!!」 きつい口調と共に 一之瀬の顔は 鬼の形相へと変わる。 「部長は見境ないんですね! 最低です……っ」 は!? 誰か見境ないって? 「厳しいけど、 貴方に認めてもらいたくて 頑張ってた俺がバカみたいです」 ちょ、ちょっと待て! 「いち……」 「帰ってくださいっ」 俺は一之瀬の剣幕に まともに名前すら呼ばせて もらえない始末。 がしかし────、 このまま帰れるか! 俺を追い出しにかかった 一之瀬を強引にベッドへと 引き戻すと、そのまま 力づくで押さえ込み、 「落ち着け馬鹿っ」 思わず声を荒らげた俺に、 一瞬目を丸くした一之瀬。 けれどその顔は 直ぐに不満そうな顔に戻る。 これは完全に勘違いを しているな。 俺は冷静さを取り戻すため 深く息を吐いた。

ともだちにシェアしよう!