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第52話

パソコンと向き合い始めて数時間。 手を止め時計に目をやれば既に昼を過ぎている。 「もうこんな時間か」  そう言えば一之瀬はまだ寝ているのだろうか? 俺は仕事を終わらせると寝室に顔を出す。 案の定一之瀬はスヤスヤと寝息を立てている。よく寝るな……。まあ土曜日だし明日もう一日 あるのだからいいか。俺はそう思いながら寝室を出てキッチンへと向かう。 「なんか作るか」  そんな独り言を呟きながら冷蔵庫を確認して作れそうなものを吟味する。 「起きたら食べるよな……」  料理は少々面倒だなと思いつつ手早く作れるものに決めテキパキと動き出す。 誰かの為にこんな事をする日が来るなんて……。しかも男相手とか自分でも驚く。  俺は愛想がいい方じゃない。それは敢えてそうしていたと言うのもあるが、元々得意な方 でもない。ただ人に寄って来られるのを避けていたのが正直な所。なのに自分から飛び込むなんて。 「味薄いか」  料理を作りながらグルグルと考え込む。悪い癖だ。 一時間ほどで料理が完成するとガチャと扉が開く音。俺は火を止め目をやれば、まだ眠そうな 一之瀬が起きてきた。 「起きたか」  目を擦りながらこちらを見ると少し照れたような表情を見せた。 「身体は大丈夫か?」  一之瀬は落ち着かなそうにウロウロとして小さく頷く。 「昼過ぎてる、飯食べるなら座れ」  いつもは強気な一之瀬も潮らしく言う通りに座ると俺は作り立ての料理を並べていく。 「ぶ……聖夜ってなんでもできるんだね」  頭文字にぶが付くのはまだ呼び慣れていないのか。それでも素直にそう言う一之瀬は可愛いと思う。 「一人暮らしが長いだけだ」 「そうですか……」  誰もやってくれないからな。そう言いかけて止めた。自ら飛び込むことはない。 「なんでもいいから食べろ」  俺は自分のも用意すると一之瀬の前に座った。 「いただきます」  両手を合わせてから料理を口に運ぶ目の前の顔はまだ眠たげ。俺は少し間を置いて食べ始める。 「美味しい」  一之瀬はそう言って眠たそうな目を輝かせた。誰かの為に何かをするのは嫌いじゃない。ただ、 それを手放すのは本意じゃない。  一之瀬は何度も美味しいと言って綺麗に食べつくす。好き嫌いはないのだろうか? 「ごちそうさまでした」 「ああ」  片付けを始めた姿に身体を心配したが、よく寝たせいなのか問題なさそうなので俺は残りを食べ勧めた。食べ終わるころには一之瀬はソファで寛いでいる。俺は自分の物を片付け終えるとコーヒーを淹れた。勿論二人分。

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