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第59話
未だに未だに信じられない自分の恋人が自分の上司で部長って事。ましてや昨日に引き続きこの人がオレを抱いたって事。何でもできて優秀な人。オレとは大違い。そんな人とこうやって二日も共にしているなんて。
「どうした?」
「べ、別に」
オレはチラチラと彼の存在を気にしながらソファに座る。なんだか落ち着かない。仕事の話をしてもどうせ嫌そうな顔をされるだけ。ならどうする。でも正直、仕事は行き詰っている。何度出しても駄目だと言われるだけでアドバイスの一つもない。なにが間違っていていけないのか分からなくなっている。
「あの……」
オレが話しづらそうに口火を切ると、聖夜は水を飲みながらこちらを向いた。
「なんだ」
どうしよう。なんて切り出そう。声を掛けたのはいいがどうすればいいか分からない。
「き、企画書どこがいけないんですか?」
勇気を出して訊いてみる。けれど瞬間、聖夜の顔は曇った。やっぱりまずかったかな……。
「自分で考えろ」
やっぱりそうですか……。素直に訊けばもしかしたらと思ったけど、思った通りの反応でちょっとショック。
「仕事の話はなしだ」
そうですよね……。言われて改めて気づかされる。仕事に関しては厳しいと。
「ごめんなさい」
でもどうしたらいいんだ? 何が悪いのかわからないまま出し続けてもずっと通らないと思うんだけどな。せめて人並みにでも仕事が出来たら良かったのに。
「それよりお前車持ってないのか?」
「免許はあるんですけど車は持ち合わせてなくて」
新人の給料で買えるほど余裕ないよ。いつかは欲しいと思うけど、もうバリバリのペーパーだ。
「そうか」
部長の給料ってそんなにいいのかな? まあ平社員のましてや新人の給料よりは遥かに稼いでいるんだろうけど。このマンションだって間取り広いし、俺なんかの部屋よりずっと高そう。この人まだ二十代ですよ? それが部長だなんて信じられないよ。
俺なんか同じだけの年数働いたって平社員の自信あるもんね。下手すりゃ首でしょうよ。異例の出世だとは訊いてるけどどんだけだよ。課長だって出世している方だろうに。
「あの……」
「なんだよ」
ちょっと不機嫌なのかな。どうもこの人の機嫌が掴めない。普段は愛想ないから余計だよ。
「課長とは長いんですか?」
オレなに訊いてんだ? だって他に話題がないんだ。何話せって言うのさ。
「あいつとは高校からの付き合い」
高校って言うと今二十八だから約十年以上の付き合いなのか。そう考えると長いな。課長は人付き合いも良くて部下とも楽しく話しているのをよく見かける。対照的なのに馬が合うのか。
「就職先が同じなのはたまたまですか?」
「たまたまだ。誰が好んであいつと同じと職場を選ぶ」
口ではそんな事言っているけど、仲いいのに。課長なら色んな聖夜を知っているんだろうか?そりゃ意外に優しいって事は分かったし、器用でなんでもこなせるのもわかったけど。今度訊いてみようかな。ついでに仕事の相談もしてみようかな。聖夜じゃ訊いてくれそうにないし。
「俺と違ってあいつは優しいから色々訊いてみれば」
何もそんな言い方しなくても。でも本当、訊きたい事は沢山ある。でもオレ課長の連絡先知らないんだ。今度それも合わせて訊いてみよう。
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