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第60話

 でもさ、聖夜ってオレのどこがいいんだろ? オレ男だし、もしかして男好きだったとか?あー訊きたい。昔の事なんてなんも知らないし、どうせ聖夜はモテるだろうし。今まで付き合った人だっているだろうし。でも訊いたとこで素直に答えてくれるとは思えない。  でも……気になる。 「あの聖夜……」 「何」  どうしよう訊いたら不機嫌になるかな。でもやっぱり知りたい。 「聖夜はオレのどこがいいの? それとも元々男好きなの?」  オレの一言に聖夜は飲んでいたコーヒーを吹き出した。おまけに咽ている。やっぱり不味かった? 「男好きな訳ないだろう」  聖夜は吹き出したコーヒーを拭きつつ不機嫌そうに答える。男好きじゃないのか。なら何故? 尚更オレが選ばれた理由が気になる。 「じゃあどうしてオレなんですか?」  聖夜の表情はなんとも言えない顔をしている。オレは様子を伺いながらじーっと見つめてみる。 「……逆に訊くがお前は何で俺なんだ?」  うっ……そう来たか。素直に答えてくれるわけもないか。でもオレは……。 「それは気づいたら……」 「そんなもんだろう普通」  うう……おっしゃる通りで……。でも男好きではない事が分かった。ならオレは特別?自惚れてもいいのかな。  でもさ抱くときは名前で呼ぶし優しいのにこうして喋っているとツンとしていて優しくない。正直対応に困る。今も隣には来ず離れたテーブル席に座っている。甘えたいわけじゃないけど少し寂しい。 「さっきからなんだ」  オレが無意識に聖夜に視線を送っていると言われてしまった。だって側に来て欲しいなんて口が裂けても言えない。 「別に何もないです」  まだ濡れた髪。妖艶な美しさ。どうしたらこんな美人に生まれるんだろう。ご両親も美男美女なのかな?聖夜の昔の事も知りたいのに訊く事が出来ない。課長に素直に訊いた方が身の為かもしれない。  思わず小さな溜息を吐く。するとテーブル席に座っていた聖夜がこちらへやって来た。 「なんだよ膨れっ面して」  そういうと両頬を掴まれ伸ばされた。 「痛ひ」 「俺の顔になんかついているか」 「つひてないです」  痛いよ……オレは思わず涙目になりながら訴えるとようやく頬を離された。 「まさか寂しいとか思った?」  う……痛いとこを突いてくるな。はいそうですなんて言えないぞ。 「そ、そんなんじゃありません」  本当はそうなんだけどね。どうしてもこの人の前だと強気発言をしてしまう。オレは頬を擦りながら僅かな抵抗を見せた。 「夕飯どうすんだ?何処か食べに行くか?」  えっ? 聖夜とデート。それもいいけど誰かに見られたらどうするんだろう? 「ここでいいよ」  本当は出かけてみたいとも思ったけどオレは遠慮した。きっと会社の人に見られでもしたら困るのはオレじゃなくて聖夜だから。

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