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第61話
聖夜side
折角デートに誘っても断るとは。どうせ会社の人間に見られたら困るのは俺だとでも思っているんだろう。確かに見られたら不味いのは本音だけど、これじゃ食事すら誘えない。
「なら何食べるんだ」
どうせなら食べたい物を作ってみるかと訊いてみる。一之瀬はうーんと考え返ってきた答えに笑いを堪えた。
「オムライス」
まだ子供じみた所があるとは思ってはいたが、舌までお子ちゃまとは……。
「はいはい」
食材あったかな? 俺は一之瀬から離れ冷蔵庫を漁る。これは買い物に行かないと足りない。面倒だなとか思いつつ俺は必要な物をチェックしていく。
「買い物行ってくるからここで待ってろ」
どうせ誘っても来ないだろうと思って俺は一人身支度を整える。
「わかった」
「あんまり部屋漁るなよ」
俺は一応釘を刺し、車の鍵を持って部屋を後にする。一之瀬は玄関まで来ていってらしゃいと見送った。
「はぁ……」
エレベーター内で思わず溜息。何が悲しくてオムライスの為に一人買い出しに行かなくちゃいけないんだ。そりゃ俺だって食べるけどな。
地下駐車場に着くと自分の車に乗り込んで近くのスーパーまで買い出しに出かけた。
比較的ラフな格好で昼間からスーパーで一人。周りにはどう見えているのか。一之瀬がいたら余計怪しいか。などと考えつつ必要な物をカゴへ入れていく。周りは子供連れの母親や年長者が多く見られた。
「そう言えば苦手な物訊いてなかったな」
俺はボソッと独り言を言いながらも、数日分の食材を買い込む。男一人での買い物は慣れた筈だけれど流石にこの時間は独り身の買い物は目立つようで、さっきから視線が痛い。
そんなに珍しいか? やっぱり連れてくれば良かったかな。俺は周りを気にしながらも早々に買い物を切り上げ会計を済ませる。まだ生乾きの髪を搔き上げ、買った物を袋に詰めると俺は逃げる様にその場を立ち去った。
「たく」
車に乗り込むと俺はようやく周りの視線から解放された。俺が買い物したらそんなに珍しいのかと言うくらいの眼差し。正直疲れる。俺は買い物ついでに買った飲み物を口に含んで自宅に車を走らせた。
「帰ったぞ」
「お帰りなさい」
一之瀬は一目散に玄関に現れ出迎えた。俺は買った飲み物を一之瀬に渡すと荷物をキッチンへと運ぶ。
「お前苦手な食べ物は?」
冷蔵庫に買った物を入れながら一之瀬に訊いてみる。
「苦手な物ですか? ないです」
てっきり好き嫌いがあると思っていたので意外。まあない方が作るのは楽でいいが。
「あっそう」
とりあえず全て冷蔵庫に詰め込むと俺は喉を潤した。一之瀬は渡したドリンクを開けソファで寛いでいる。まあいつまでもガチガチに緊張されているよりはマシか。案外肝が据わっているんだよな。
一之瀬はこちらを気にする事なくテレビに夢中。普段テレビはニュースくらいしか見ない俺には何が楽しいかとキッチンから眺めてみる。普段一之瀬はこうやって休日を過ごしているのだろうか? 俺は本を読んでいるか溜まっている仕事をこなしているかくらいしかやる事がないから、ちょっとだけ気になった。
自分はつくづく面白みがない人間なんだと思う。もっと気楽に生きられないのかと思った事もあるが、どうにも俺にはそれが出来ない。就職してからずっと仕事一筋で生きてきた俺には早々に生き方は変えられない。
まあとにもかくにも一之瀬の影響で少しは変えられるかもと淡い期待をしながら隣に陣取ると、一之瀬の視線がこちらを向いて、再びテレビに戻る。
俺よりテレビかよ。内心ガッカリしつつも俺も何を見ているのかとテレビに視線を向けた。
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