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第63話

 ゆったりとした時間を過ごし七時を回ってようやく夕飯の支度を始めた。なにが悲しくてオムライスなのか。まあ文句も言えず俺は料理に取り掛かる。相変わらず一之瀬はテレビに夢中。一体なにがそんなに楽しいのかわからないまま俺はブツブツと独り言。  「いい匂い」  一之瀬は貼りついていたテレビから離れようやくこちらにやってくる。少しくらい手伝えと心の中で思いつつもグッと堪え準備をする。 「ほら出来たぞ」 「やった!」  反応までお子ちゃま。俺は作ったオムライスを渡すと、一之瀬はケチャップで何かを描いている。俺は片付けをしつつ一之瀬を待った。 「出来た」  何を描いたのか見れば何かの絵なんだろうが、俺には見当もつかない。一之瀬からケチャップを受け取ると俺はシンプルに掛けるだけだった。 「食べるぞ」 「うん」  お互いに手を合わせ頂きますと言うと一之瀬は一口食べた。 「美味しい」  それはよかった。とりあえず不味いと言われたくはないからな。オムライスの他にサラダとスープを付け今日の夕飯はお子様風か。一之瀬は口にケチャップを付けたままもぐもぐと食べている。 「付いてるぞ」 「へ」  俺は手を伸ばし一之瀬の口元のケチャップを手に取るとそのまま口に運んで舐めた。一之瀬は瞬間真っ赤な顔して下を向く。 「気にせず食べろ」  俺の一言に頷いてまたもぐもぐと食べ始める目の前の顔は本当に子供のように輝いていた。そんなにオムライスが好きなのか? と思いつつも俺も食べ進める。  どんなものでも美味しいと言って食べてくれるのは悪い気がしない。バランスよく食べてスープも飲み干して俺は先に食べ終えた。 「ごちそうさま」  食べた食器を片付けると、洗い物を始める。一之瀬は味わうように食べていた。一通り洗い物を終えると食器を片付け俺はコーヒーを淹れ始めた。  一之瀬はようやく食べ終わると俺に言われる前に自ら片付け始める。 「ごちそうさまでした」 「ああ」  ちゃんと食器を洗ってから布巾で拭き、棚にしまっているではないか。これなら今度から手伝わせるべきだな。コーヒーが出来ると俺は一応確認する。 「コーヒ―飲むか?」 「もらう」  俺は二人分コーヒーを淹れソファにいる一之瀬の隣に座る。 「ほら」 「有難う」  俺は香りを楽しんだ後、一口含む。この瞬間が至福の時だ。一之瀬はそんなのはお構いなしにごくごく飲んでいる。全くやっぱりまだ子供だな。俺は一口一口味わいながら一之瀬を見る。明日の夜はもういないのか。何故か胸がキュッと締まる。月曜からはまた仕事だ。今度こいつとゆっくりできるのは週末か。そう思うとなんだか複雑な気分になった。  仕事では割り切らないと他の部下に示しがつかない。特別扱いは以ての外。私情は挟まないそう決めている。まあ俺が手出ししなくてもタコスケがなんとかしてくれるだろう。普段はウザったいだけの涼介もこういう時は助かる。一応あいつには一言電話を入れておこう。

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