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第64話
翌日ゆっくり寝た後、目を覚まし軽く昼食を取ると約束通り一之瀬を送り届けるため支度を始めた。
「忘れ物ないか?」
俺の問いに一之瀬は返事をすると、金曜日会社帰りのままの格好で駐車場まで行く。俺はラフな格好で運転席に乗り込むと、一之瀬は助手席に乗った。
「行くぞ」
「うん」
一之瀬は何処か寂し気な顔をして窓の外を眺めている。俺は気づかぬふりをして車を発進させた。家からだと約二十分程度で着く為、俺は一之瀬に話しかけた。
「月曜日ちゃんと会社来いよ」
「行きますよ」
俺はまるで子供扱い。一之瀬は少し不機嫌だった。俺からすればまだ子供と思ってついそんな扱いをしてしまうのだが、一之瀬に取ったら迷惑なんだろうな。
「仕事では特別扱いはしないからな」
「わかっています」
一之瀬はそれだけ返事をすると窓の外に視線を向けた。なにか言いたげな様子だと思ったのは俺の気のせいか?この二日間セックスして恋人らしい時間を過ごしても、部下に変わりはない。ましてや会社にバレれば俺ではなく一之瀬が肩身の狭い思いをするのは目に見えている。それを一之瀬はどれだけ分かっているのか。どうせ俺に迷惑だとか考えているに違いない。現実は一之瀬のが辛い思いをするなんて事、気づいてないんだろうな。
目の間の信号が赤になった瞬間、俺は一之瀬を引き寄せキスをする。舌を絡め吸い付いた。
「んん、んうん」
信号が変わるのと同時に唇を離し何事もなかったかのように運転に集中する。
「……」
俺の行為に一之瀬は完全に黙ってしまった。どんな気持ちなんだろうか? 俺は一之瀬を振り回している?そんな事を考えていればあっという間に一之瀬のマンションに着いてしまった。
俯いたまま動こうとしない。俺はシートベルトを外しもう一度一之瀬を引き寄せる。
「聖夜……」
「また週末な」
同じ会社なのに割り切るしかない俺を分かって欲しいなんて言えない。
「好きだ」
「……」
一之瀬は黙ったまま頷く。俺は引き寄せたまま誰もいないのを確認して口付ける。
「んっんん……ん」
歯列を割って舌を追いかけ絡める。何度も吸い上げ上顎を舐めると一之瀬はビクンと反応した。
「んん、これっ……以上は」
一之瀬の言葉に俺はようやく離し解放する。名残惜しんでいるのは俺の方か……。
「何かあったら涼介に頼ってくれ、話はしておく」
「分かった」
一之瀬の顔は赤らんで下を向く。俺は頬にキスをして離れた。
「行け」
「送ってくれて有難う、じゃあね」
「ああ」
一之瀬は鞄を片手に助手席を降り、何度も振り向いてマンションへ帰って行く。俺は溜息を吐いて姿が見えなくなった頃、車を発進させた。
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