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第66話

湊side  聖夜と別れてからついついボーっとしてしまう。明日から仕事、そう思うと憂鬱で仕方ない。夕方近くなってようやく企画書に目を通すけど、これもどうせ却下されるんだろうと思うと悲しくなる。自分では何処が悪いのか全く分からない。 「はぁ……」  思わず出る溜息。二日間で見れた聖夜のもう一つの顔が忘れられない。文句言いながらも優しかった。けれど仕事になるといつも素っ気ない。それが少し寂しい。頭では分かっているのに気持ちがついてこない。とりあえず適当にご飯でも作るか。と言っても聖夜みたいに作れないから、オレの料理は大雑把。とりあえず食べられればOK。 「いただきます」  ただのインスタントラーメン。少しは料理覚えないとな。そう思いながらもズルズルと麺をすする。食べながら明日提出する企画書を作り直す。   「これも駄目かな……」  作り直しても全く手応えがない。自信なんてとっくに無くしてる。食べ終わった食器を洗いもせず水につけると、企画書にもう一度目を通す。よくやった、そう言われたいだけなのに。今まではただただ悔しくて見返したいって気持ちだけだったけど、特別な関係になってから、今まで以上に褒められたいと言う気持ちが強くなっている。 「これじゃあ駄目だよね……」  オレは机に企画書を投げるとベッドへダイブ。天井を仰いで出るのは溜息ばかり。仕事でも認めてもらいたい。その為にはどうすればいいのか。グルグルと頭を巡らせてみても答えは出ない。一時間くらいベッドの上でゴロゴロした後、ようやく重い腰を上げお風呂を済ませた。  風呂から出て投げ出した企画書を鞄にしまいこんで、布団に潜りこんだ。明日課長にアドバイスもらおう。オレは開き直って目を閉じた。いつもならまだ起きている時間だけど、オレはスーッと眠りにつく。  翌朝いつもより早く目が覚め、いつもは食べない朝食を食べると、昨日やり残した洗い物を済ませる。時計に目をやればもう出社時間。オレはスーツに着替え重い足取りで駅に向かった。 「おはようございます」  満員電車に揺られて会社に着くといつもの挨拶。皆それぞれのディスクで挨拶を返し、オレは自分の席に腰を下ろした。いつもより早く着いた社内はまだ数人程度。聖夜の姿もまだなかった。  パソコンの電源をつけ、鞄から昨日の企画書を取り出すともう一度目を通す。 「はぁ……」  オレが溜息を吐いたと同時に、聖夜が出社。 「おはよう」  心地いいトーンの挨拶。皆一斉に聖夜に視線を移し挨拶をする。聖夜が席に着くとピリッとした空気に変わった。 「部長おはようございます。これ新しい企画書です」  オレと同期の社員が一早く聖夜の元へ駆け寄ると、企画書を提出。聖夜は淡々と企画書に目を通し暫くすると口火を切った。 「悪くないがもう少し内容を詰めてみろ」 「はい、もう少し手を入れてみます。有難うございました」  オレと同期の社員は皆結果を出している。なのにオレは無言で突き返されるだけ。オレは手元の企画書を鞄に戻して小さく溜息。 「どうせ見せても突き返されるだけ……」  オレはいつもの雑務をこなし始める。 「皆、おはよう」  一際明るい声の挨拶。課長の声だ。皆はおはようございますと返すと、課長はニッコリ微笑んで自分の席へと腰を下ろした。課長に相談してみようか……。オレは迷ったけど課長の元へ駆け寄り声を掛けた。 「か、課長」 「よう一之瀬、どうした?」  オレがモジモジしながら言葉を探すと、一瞬聖夜の視線を感じた。振り向いた時にはもうパソコンに視線は移っていてオレは課長の声でハッとする。 「何か話か?」 「あの……お昼休憩の時に相談したい事があるんですけど良いですか?」  課長はニッコリ微笑んでならランチしようと言ってくれた。オレは頷くと自分の席へと戻った。

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