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地獄 9

悔しいけど、今の自分はあいつがいないと生きていけないくらいに弱い。 とても…無力だ。 咀嚼回数が減っていく。 でも本当の俺はこんなじゃなくて。 でも若頭に逆らう術なんてなくて。 でも、でも、でも プライドと恐怖が入り混じった変な感情は、心の何処にも落ち着く場所はなくて、 でも唯一、確かな想いはあった。 「…おい」 気づけば咀嚼をやめていて、 「…りたぃ」 「あ?」 「家に…かえりたぃ」 そう、漏らしていた。 「お前…ふざけてんのか」 怒気を纏った声を聞いた瞬間我に返る。 …やってしまった。 恐怖で頭が塗り替えられパニック状態に陥る。 「あ…ご、ごめんなさ」 咄嗟に謝罪を述べようとしたが、それは最後まで適わなかった。 ゴン、と鈍い音がして 気づいたら、自分の体は床に転がっていた。 え、…え? 左の頬に何かがつぅ、と伝う感触。 こめかみが異常に熱くて、そこに手を這わせて見たら、べっとりと血がついていた。 頭から食べかけのおかゆを被っている。 おかゆの容器で殴られた そう思ったのも束の間、若頭は俺に馬乗りになると平手で頬を3回張った。 「ふざけた事抜かしてんじゃねえぞ」 パン、と頬を張られる。 「お前は此処で暮らしてればいいんだよ」 また、頬を張られる。 「逃げ出そうなんて考えたら…どうなるか分かってんだろうな」 はい、ごめんなさい そう言おうと思ったのに過呼吸で上手く喋れず、さらにこめかみから流れ出る血のせいで意識は朦朧としていた。 「おい聞いてんのか」 2,3度頬を張られるも、反応しない俺を見て 「っあ゙あ゙!」 若頭は、ぱっくりと裂けたこめかみに爪をねじ込んだ。 あまりの痛さに気絶することも出来ない。 「聞いてんのか、返事は」 「っいだぃ、ごめ、ごっごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」 「返事を聞いてんだよ俺は」 そう言うと、爪をさらに奥へねじこんだ。 「ッッッッ!!!!!」 肉をえぐられる感覚に、目の前が真っ白になる。 パニックと過呼吸、流れ続ける血も相まって、俺は周りの音が聞こえてなかった。 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!ゆ、許してっ…」 泣き叫びながら謝る俺は、もう誰に謝ってるのか、 何に対して謝ってるのか分からなくなっていて。 周りの音もシャットアウトしてしまった今、何を言えばいいのか分からなかった俺は、つい本音をするりと漏らしてしまった。 「て…たすけて蓮ッ」 その瞬間。 ゴキリ。 「ッッあああぁぁ!!」 両肩に耐え難いほどの痛みが走った。 目の前に火花が散り、意識が飛びかける。 「ハッ…ハッ、…」 「お前…まだ自分の立場が分かってないのか」 若頭はゆらゆらと立ち上がると、俺のお腹を思い切り蹴り飛ばした。 「グッ…」 勢いよく壁に叩きつけられた体は悲鳴をあげていたが、もう叫ぶ気力もなかった。 「自分が誰のモノか分かってないなら分からせてやる」 ニヒルな笑みを浮かべた若頭は俺を掴むと、ベッドに投げた。

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