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出会い 1
「…ぃ、…起きろ、翠」
声が聞こえる。自分を呼んでいるような…
でもまだ寝ていたい、目を開けることすら面倒くさい。
「…起きろっつってんだろうが」
「…っ!!」
パン、と頬を張られて飛び起きた。
「っ、ぇ、…ぁ、」
なんだ今の。殴られた…?
昨日のせいで声が枯れてでない。
目線の先にはスーツ姿の若頭と、その後ろで挙動不審にしている綺麗な男。
誰…ていうか、怖い、
昨日の事を思い出して体が勝手に震える。
「…おい」
若頭に呼ばれて、ただそれだけなのに大袈裟と
も言えるほどにビクリと全身が震えてしまった。
若頭は無表情で何を考えているかわからない。
拒絶してしまった。殴られる。
じんじんと痛む頬。肩も痛い。怖い。怖い怖い怖い、
だんだんと荒くなる呼吸を黙って見ていた若頭は、不意に椅子から立ち上がった。
ぎゅっと目を瞑り、次の衝動を待っていると。
「…今から出かけるから、こいつを置いてく。変な真似すんじゃねえぞ」
ぽつりと。それだけ言うと、さっさと部屋を出ていってしまった。
ガチャンと閉められたドアを見つめる。
…それだけ?
拍子抜けだ。わざわざそれだけを言うために文字通り叩き起されたのか。…でも殴られなくてよかった。
若頭がいなくなったことで重かった部屋の空気も軽くなり、過呼吸気味だったのもだんだん楽になってきた。
「…翠様、お水をどうぞ」
呼吸が楽になったところで、部屋に置いてかれた男がペットボトルの水を持って近づいてきた。
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