84 / 89

出会い 2

肩がグロテスクな色になっていて手が全く動かせない。 それを考慮してか、ペットボトルにはストローが刺さっていた。 「寝たままで大丈夫ですよ」 優しく微笑みながら話しかける男。 「…誰」 よくわからない人からは何も貰うなって蓮が言ってた。…お粥は例外だ。 俺の訝しげな目線に気づいても嫌な顔ひとつせず、ペットボトルを脇のテーブルに置いて向き直った。 「失礼致しました。私は夏目と申します。若…朝霧仁様から翠様の事は聞いておりました…」 少し伏し目がちになったその瞳は揺れている。 「…これからお会いすることが多くなるかと思いますので、どうかよろしくお願い致します」 丁寧にお辞儀までしてくれた男…夏目さん。 何故かわからないけど、すごく…優しそう。 そう、感じた。 「あ…えっと、翠、です」 こちらも一応自己紹介をしておく。 自分の本名を紹介するのは変な感じがする。いつもSと名乗っていたから。 「はい。よろしくお願い致します、翠様」 にっこりと笑った夏目さん。 「あ、お水飲めますか…?」 自己紹介が終わったところで再び水を勧められる。 水も欲しいけど、出来ることなら肩を治療して欲しい。あとこめかみ。 横たわりながらストローでゆっくりと水を吸う。本当にゆっくりだったけれど、夏目さんは俺に合わせてずっとボトルを支えてくれた。 「…先程医者を手配しました。あと少しで到着するそうなので、あと少しの辛抱です」 その言葉を聞いた瞬間。 ふぅ、とため息を着いたその瞬間。 ぽろりと涙がこぼれ落ちた。 「翠様…!?」 いきなり泣いた俺にびっくりしたのか、アワアワと軽くパニックになっている。 最近、ていうか今、すごく涙腺が弱くなった。 ここしばらく、人の温かさに触れていなかったからなのか。こんな、言葉ひとつで泣くほど脆くなっていたのか。 この状況が異常なせいだと頭では分かっているのに、 「…っ翠様…」 涙を止めることは、出来なかった。

ともだちにシェアしよう!